遺産分割の対象となる遺産とは,原則として,①相続開始時に存在し,かつ,②遺産分割時にも存在する,③未分割の遺産です。以下で,①~③がどういった遺産なのかを説明します。
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目次
遺産分割の対象となる遺産
① 相続開始時に存在する財産
被相続人が死亡した時に存在する財産です。例えば,被相続人の亡くなる直前に,相続人の1人が被相続人名義の預金を引き出し,その使途が不明の場合,使途不明金は遺産分割の対象にはなりません。
例えば,亡くなる直前に800万円の預金が引き出された場合,引き出される前には1000万円の預金があったとしても,死亡時に残された200万円のみが遺産分割の対象になります。引き出された800万円については,別途,不当利得や損害賠償など民事訴訟で解決すべき事項となります。
ただし,預金を引き出した相続人が,引き出した金額を遺産に戻すことに同意した場合には,遺産分割の対象とすることが出来ます。
② 遺産分割時に存在する財産
相続開始時に存在した遺産であっても,遺産分割時,存在しなくなってしまったものは遺産分割の対象とはなりません。例えば,相続開始から1年後に遺産分割が行われた場合,その1年間に,遺産である預金が払い戻しされてしまったり,不動産の共有持分が第三者に売却されてしまったり,動産が毀損・滅失してしまった場合,それらを遺産分割の対象に含めることは出来ません。
ただし,相続人全員が同意した場合などには,遺産分割の対象とすることが出来ます。
③ 未分割の遺産
一部の遺産について,相続人間で,遺産分割が済んでいる場合には,その遺産については分割が終了しているため,遺産分割の対象とはなりません。
遺産分割調停に関するQ&A
- 相続人の中に意思能力や行為能力(財産上の有利不利を判断する能力)に問題がある当事者がいる場合,遺産分割調停はどう進めるのですか?
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家庭裁判所に後見開始の申立てをする必要があります。
裁判所によって成年後見人が選任されると,成年後見人が遺産分割調停に参加します。
- 相続人の中に不在者(従前の住所又は居所を去って容易に帰って来る見込みがない者)がいる場合,遺産分割調停はどう進めるのですか?
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家庭裁判所に不在者財産管理人の選任の申立を行い,選任された不在者財産管理人が遺産分割協議に参加します。
- 相続人中に未成年者がいる場合,遺産分割調停はどう進めるのですか?
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親権者又は未成年後見人(親権者の死亡の場合など)が法定代理人として遺産分割調停に参加します。
- 親権者と未成年者が共に相続人の場合,遺産分割調停はどう進めるのですか?
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親権者が未成年者の代理人となって遺産分割調停を行う場合,親権者と子の利益が相反するため(親権者が多くの財産をもらおうと,子の取得分を減らすなど),子のために特別代理人を選任する必要があります。家庭裁判所に特別代理人の選任の申立を行い,選任された特別代理人が遺産分割調停に参加します。
- 親権者は相続人でなかったとしても,その親権者の複数の子(未成年者)が相続人となっている場合,遺産分割調停はどう進めるのですか?
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親権者がそれぞれの未成年者の代理人として遺産分割協議を行う場合,その一人の子と他の子らとの利益が相反します。そのため,親権者は,子の一人のみの代理人として調停に参加出来ますが,他の子らは,それぞれに別の特別代理人を選任する必要があります。
- 相続人の一部が参加せずに成立した遺産分割調停はどうなるのですか?
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全部無効となります。
- 弁護士以外の代理人に調停に出席してもらうことは出来ますか?
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病気(認知症を除く),海外出張,妻子や親の危篤,近親者の吉凶事等が生じた場合には,裁判所の許可を得て,弁護士以外の者に代理人として調停に出席してもらうことが出来ます。
ただし,事案が複雑で弁護士でなければかえって本人の利益を害するような場合には許可が取り消されることもあります。
- 遺産分割調停を申し立てる場合,管轄の裁判所はどこになりますか?
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原則として,相手方の住所地を管轄する家庭裁判所です。
相手方が複数いる場合には,その全てに土地管轄があるため,その中から最も望ましいと考える家庭裁判所を選んで,調停を申し立てます。
- 遠方に住んでおり,調停が行われる裁判所に出向くのは困難なのですが,電話などで調停に出席することは出来ますか?
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遠方の場合その他相当と認めるときは,当事者の意見を聞いて,家庭裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法(電話会議システム),テレビ会議システムで調停に参加することが出来ます。
なお,民事裁判では,当事者の一方が裁判所に出頭した場合に限り,電話会議システム等を利用することが出来ることになっていますが,調停では当事者が一人も裁判所に出頭していなくとも,利用することが出来ます。
- 調停が成立するとどうなるのですか?
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裁判所が,相続人間で合意した内容を記載した調停調書を作成します。
そのため,相続人間で,別途,遺産分割協議書を作成する必要もありません(遺産分割協議書を作成するには,実印での押印,印鑑証明書の貼付が必要となりますが,それらも必要ありません)。
また,調停調書があれば,単独で,預金の払い戻し,不動産の名義変更等を行うことが出来ます。不動産の名義変更の際にも,戸籍謄本等の添付も必要ありません。
- 調停が不成立になるとどうなるのですか?
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裁判官が遺産分割の内容を決める審判手続きに移行します。
審判に移行すると,裁判所は原則として当事者からの陳述を聞かなければならないとされています。
方法としては,裁判官の面前で,口頭で,直接自分の意見を伝える方法(「審問」といいます。調停では,調停委員に伝えますが,審判では裁判官に直接伝えます),家庭裁判所調査官による調査によって間接的に伝える方法,書面で伝える方法などがありますが,実務の運用としては,審問を基本とし,個別事件の実情に応じて,その他の陳述聴取の方法も選択されているようです。
- 審判における審理が終結するとどうなるのですか?
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裁判官が遺産分割について判断を示した審判書が作成され,当事者にその謄本(正本)が送達されます。
審判書には,遺産〇〇を〇〇の単独所有とする,遺産〇〇を〇〇の単独所有とする等といった遺産分割の内容が示されるとともに,その詳細な理由が記載されます。
その内容に納得がいかなければ,審判の送達を受けた日の翌日から2週間以内に不服申立て(即時抗告)をすることが出来ます。即時抗告がなされると,事件が家庭裁判所から高等裁判所に移行され,別の裁判官3名が審判の内容が正しかったかを判断します。
一方,当事者双方が不服申立てをしなかった場合,即時抗告の期間の満了により審判は確定し,各相続人は,審判書によって,単独で預金の払い戻し,不動産の名義変更等を行うことが出来ます。