遺留分侵害額を計算する方法

前回のコラムでは遺留分についての基礎知識について解説いたしました。

今回は遺留分侵害額はどのようにして計算していくのかということについて解説します。

目次

遺留分算定の基礎財産

遺留分算定の基礎財産とは

遺留分侵害額を算定するには,まずは各相続人の遺留分の額が分からなくてはなりません。
そして,遺留分の額は,遺留分算定の基礎財産をもとに算出されます。
これは,亡くなった被相続人が相続開始に有していた財産に限定されるものではありません。
なぜなら,被相続人が死亡する直前にほとんどの財産を第三者に贈与していたような場合に,遺留分権利者の権利が十分保証されなくなってしまうからです。

遺留分算定の基礎財産の算出方法

遺留分算定の基礎財産
= 相続開始時における被相続人の積極財産(遺贈財産を含む)の額・・・①
 +相続人に対する生前贈与(特別受益)の額(原則10年以内)・・・②
 +第三者に対する生前贈与の額(原則1年以内)・・・③
 -被相続人の債務の額・・・④

①被相続人の積極財産の調査方法について


ア 不動産
  地方に不動産等を持っている場合などは詳細不明のことがあるため,被相続人宅に郵送されてきた
  固定資産税納付通知書等をもとに,登記事項証明書で確認するのがよいでしょう。
イ 金融資産
  預金口座については,通帳,キャッシュカード,金融機関からの郵便物などから調べることが出来ます。
  通常は生活圏内に預金口座を有していることが多いです。
  また,金融機関からカレンダー手帳などの贈答品を受け取っている場合,その金融機関に
  預金口座を有していることもあります。
  有価証券に関しては,証券会社からの郵便物,預金通帳の取引履歴(配当金の入金)などから
  判明することがあります。
ウ 貸金庫
  被相続人が金融機関に貸金庫を有している場合があります。その場合,相続人全員の立会いのもと,
  中身を確認します。

②相続人に対する生前贈与(特別受益)財産の加算

相続人が,相続開始前10年間に受けた贈与で,特別受益(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与)に該当するもののみ加算されます。つまり,相続財産の前渡しと考えられる贈与のみ加算され,生活費の援助などは加算されません。具体的には以下のようなものが含まれます。

ア 婚姻又は養子縁組のための贈与
  婚姻の際の持参金支度金は特別受益に該当します。
  その一方,結納金や挙式費用は特別受益に該当しないと考えられています。

イ 学費
  高校卒業後の教育(専門学校,大学,留学,留学に準ずる海外旅行の費用等)の学費は,
  私立の医科,薬科等の大学の入学金,授業料のように特別に多額なものでない限り,
  特別受益には該当しないと考えられています。

ウ 生計の資本としての贈与
  居住用の不動産の贈与,その取得のための金銭の贈与,営業資金の贈与,借地権の贈与などが
  特別受益に該当します。
  その一方,遊興費のための贈与などは含まれません。

③相続人以外の第三者に対する生前贈与財産の加算

相続開始前1年間になされた贈与が全て含まれます。上記②とは異なり,特別受益に該当しない贈与も含まれます。

④債務の控除

被相続人が亡くなった時に負っていた債務,相続財産から控除されます。
これは遺留分制度が「相続人が現実に取得する価額」を基礎として遺留分権利者に一定割合を留保する制度であるからです。
税金や公共料金の滞納分,医療費,入院代,施設利用料等の未払金なども控除することが出来ます。

遺留分の額について

総体的遺留分

総体的遺留分とは,全ての相続人の遺留分を合算した額になります。その計算方法は以下のとおりになります。

  • 直系尊属のみが相続人である場合
    遺留分権利者全体に残されるべき相続財産の価額の3分の1(総体的遺留分の割合)が遺留分になります。
  • それ以外の場合
    直系卑属のみの場合,直系卑属と配偶者の場合,直系尊属と配偶者の場合,配偶者のみの場合は,遺留分権利者全体に残されるべき相続財産の価額の2分の1(総体的遺留分の割合)が遺留分になります。

個別的遺留分

個別的遺留分とは,各相続人それぞれの遺留分額になります。
各遺留分権利者の遺留分額は,総体的遺留分に法定相続分の割合を乗じた額となります。具体的には,以下のように算出されます。

個別的遺留分=遺留分を算定するための財産の価額×(総体的遺留分の割合)×(法定相続分の割合)

具体例

被相続人が死亡し,相続人は妻と子A,Bである。
相続財産が1200万円の場合,総体的遺留分の額は,上記②より,1200万円×1/2(総体的遺留分の割合)=600円となり,
妻の個別的遺留分は600万円×1/2(法定相続分の割合)=300万円,
子A,Bの個別的遺留分は600万円×1/2×1/2(法定相続分の割合)=150万円となります。

遺留分侵害額

遺留分侵害額の算出方法

遺留分侵害額= 遺留分額・・・①
        -遺留分権利者が受けた遺贈,特別受益の額・・・②
        -遺産分割の対象財産がある場合に,遺留分権利者の具体的相続分に
         相当する額・・③
        +遺留分権利者が負担する債務(遺留分権利者承継債務)・・④

  • 遺留分額
    上記「遺留分の額について」で算出した額となります。
  • 遺留分権利者が受けた遺贈,特別受益の額の控除
    遺留分権利者が遺贈又は特別受益を受けていた場合には,その価額を控除します。
  • 遺産分割すべき対象財産がある場合の控除額
    遺産分割すべき対象財産がある場合には,遺留分権利者が遺産分割において取得すべき財産の価額を遺留分の額から控除します。
  • 遺留分権利者が負担する債務
    遺留分権利者が相続によって負担することになる債務の額を加算します。

遺留分侵害額計算の具体例

具体例1

被相続人の相続人は子供A,Bの2人である。被相続人は,その亡くなる3ヶ月前に愛人Cに7000万円の生前贈与をしており,亡くなった時の財産は3000万円,債務は2000万円であった。このとき,A,Bの遺留分侵害額はいくらか?

①遺留分の基礎となる財産

相続開始時における被相続人の積極財産(3000万円)
 +加算されるべき贈与額(7000万円)
 -債務(2000万円)=8000万円

②A,Bの各遺留分額(1人あたり)

8000万円(遺留分権利者全体に残されるべき相続財産)×1/2(総体的遺留分率)×1/2(法定相続分率)=2000万円

③A,Bが相続によって得た財産(1人あたり)

3000万円✕1/2=1500万円

④A,Bの債務の分担額(1人あたり)

2000万円✕1/2=1000万円

⑤A,Bの遺留分侵害額(1人あたり)

2000万円ー1500万円+1000万円=1500万円

具体例2

被相続人の相続人は子供A,Bの2人である。被相続人の遺産は2000万円,債務は500万円であるところ,被相続人は,愛人Cに全財産の半分を包括遺贈する遺言を残していた。このとき,A,Bの遺留分侵害額はいくらか?

①遺留分の基礎となる財産

相続開始時における被相続人の積極財産(2000万円)
 -債務(500万円)=1500万円

②A,Bの各遺留分額(1人あたり)

1500万円×1/2(総体的遺留分率)×1/2(法定相続分率)=375万円

③A,Bが相続によって得た財産(1人あたり)

1000万円(Cへの遺贈額1000万円を除く積極財産)✕1/2=500万円

④A,Bの債務の分担額(1人あたり)

250万円(Cの債務負担額250万円を除いた額)✕1/2=125万円

⑤A,Bの遺留分侵害額(1人あたり)

375万円-500万円+125万円=0円

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法律相談料:5,500円/30分

受付:平日9時〜18時

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