相続分の指定・放棄・譲渡はできる?手続き方法や注意点について解説します!
相続分の指定について
相続分の指定とは,被相続人の意思に基づき,共同相続人の中の一定の者について法定相続分と異なった割合を定めるもので,各相続人について,遺言で,相続財産の何%とか,何分の1というように示されるものです。
各相続人の割合
例えば,被相続人には,妻Xと子A,Bの相続人がいる場合に,「X,A,Bの相続分を各3分の1ずつとする」というように,相続分全体に対する割合で指定がされます。
色々な方法がありますが,例えば,妻Xと子A,Bの相続人がいる場合に,「Aの相続分を3/5とする」と相続人の一部のみ相続分の指定をすることもあります。
このような場合,Aに3/5だけを与えるという趣旨なのか,3/5+残りの2/5の法定相続分も与える趣旨なのかは一概に判断することは出来ず,諸々の諸事情を考慮して,解釈されます。前者の趣旨と考えられる場合には,指定されていない他の相続人の相続分は,指定されていない遺産部分(残りの2/5)を法定相続分(Aは除外)の割合で取得することになります。
X=2/5×1/2=1/5
A=3/5
B=2/5×1/2=1/5
法定相続分についてはこちらの記事で詳しく説明しています。
相続分の指定と包括遺贈との違い
- 相続分の指定は相続人に限られますが,遺贈は相続人に限られません(法人も含む)。
- 相続分の指定を受けた相続人が,被相続人より先に死亡した場合,代襲相続されますが,包括遺贈の受贈者が先に死亡した場合,遺贈は無効になります。
遺贈についてはこちらの記事で詳しく説明しています。
代襲相続についてはこちらの記事で詳しく説明しています。
効果
- 相続分の指定がされると,法定相続分ではなく指定相続分に従って,各相続人の相続分が決まります。ただし,各相続財産をどのよう分割するかは決まっていないため,共同相続人間で遺産分割協議が必要となります。
- 相続債務については,相続分の指定がなされた場合でも,債権者は法定相続分に従って請求することができると考えられています。ただし,相続人の内部関係においては,指定相続分に応じた負担割合になると考えられているため,相続人が法定相続分に基づいて債権者に弁済した場合,後に他の相続人に対し,指定相続分に基づいて求償することは可能です。
- 被相続人が相続分を指定した場合に,当該相続人が特別受益として生前贈与を受けていたときは,具体的相続分の算定に当たっては,みなし相続財産に乗じる相続分率は指定相続分となります。
相続分は放棄できる?
「相続分の放棄」とは,共同相続人がその相続分を放棄することです。「相続放棄」は,プラスの財産(相続財産)とマイナスの財産(相続債務)の両方を放棄することになりますが,「相続分の放棄」はプラスの財産のみを放棄するものです。そのため,相続分の放棄は,相続債務がないような場合に利用されます。
手続き
相続放棄は,相続人になったことを知った日から3ヵ月以内に,相続放棄する旨を家庭裁判所に申述しなくてはなりませんが,相続分の放棄は,相続が開始してから遺産分割までの間,いつでも可能で,方式も問いません。ただし,遺産分割調停中に相続分の放棄をする場合には,本人の署名,実印の押印,印鑑証明書の添付が求められます。
効果
- 遺産を取得しないことになります。他方,相続分の放棄により,他の相続人の相続分が変動します。他の相続人が,相続分放棄者の相続分の合計を,相続の放棄者以外の相続分の割合で取得します。
- 遺産分割調停では,裁判所によって排除決定がなされ,当事者として出席出来なくなります。
- 相続分の放棄は,相続人としての地位を失うことではないため,相続債務について負担義務を免れることは出来ません。
相続分は譲渡できる?
「相続分の譲渡」とは,プラスの財産(相続財産)とマイナスの財産(相続債務)とを包括した遺産全体に対する譲渡人の割合的持分を譲受人に移転することです。相続分の放棄と異なり,マイナスの財産も移転します。
相続分の放棄,相続放棄との違い
相続分の放棄は,主として,特定の相続人に相続分を譲渡したいといった意向のない場合に利用され,相続分の譲渡は,特定の相続人に相続分を譲渡したい場合に使われます。
また,相続放棄の場合,放棄した相続人の相続分は,法律に定められた順位に従って,他の相続人に割り振られますが(例えば,父が死亡し,相続人が母と子一人の場合,子が相続放棄すると父の両親に相続分が割り振られます),相続分の譲渡の場合,自分の意思で,譲受人を指定出来る(子は母に相続分を譲渡することが出来ます)という違いがあります。
相続分の譲渡の利用場面
以下のような場面で利用されます。
- 相続トラブルに巻き込まれたくない場合
相続分の譲渡をすると,遺産分割協議に参加しなくてもよくなりますので,相続人間のトラブルに巻き込まれるのを未然に防止出来ます。
- 相続人が多数で,当事者を整理したい場合
多数当事者が,遺産分割手続きに参加すると収拾のつかなくなることがありますので,参加者を少数に絞り,紛争の早期解決を図ります
- 早期に資金が欲しい場合
遺産分割が終了するまでは預金等は凍結したままの状態にあります。そこで,早く資金が欲しい相続人は,有償で相続分を譲渡してもらい,資金を得ることが出来ます。
遺産分割についてはこちらの記事で詳しく説明しています。
手続き
相続分譲渡証明書(実印で押印,印鑑証明書添付が望ましい)などを作成しておいた方が良いでしょう。
また,第三者に相続分を譲渡した場合など,他の相続人は誰と遺産分割協議をすべきか分かりませんので,他の相続人に,相続分譲渡通知書などを送付しておいた方が良いでしょう。
効果
- 譲受人は譲渡人が遺産の上に有する持分割合をそのまま承継します(譲受人が第三者の場合,遺産分割手続きに関与することが出来ます)。
- 譲渡人は,遺産分割手続きに関与することは出来なくなります。遺産分割調停では,裁判所によって排除決定がなされ,当事者として調停に出席出来なくなります。
- 譲渡人,譲受人間では債務も承継しますが,債権者に対し,それを対抗することが出来ません。従って,譲渡人は債権者から請求された場合には,返済せざるを得ませんので注意が必要です。
特殊な場合
相続分の一部譲渡も可能です。
また,相続財産のうち特定の財産の共有持分のみ(例えば,土地の共有持分のみ)を譲渡することも可能です。