職場におけるセクハラ問題-判断基準やなぜセクハラが行われるのか原因を解説-

監修者:弁護士 渡辺秀行 法律事務所リベロ(東京都足立区)所長弁護士

監修者:弁護士 渡辺秀行

 法律事務所リベロ(東京都足立区)
 所長弁護士

近年,日本でもセクシュアルハラスメント(以下,セクハラ)に対する認識が高まり,企業においても対策が進められていますが,依然として根深い課題です。セクハラ被害の影響は個人の尊厳や働く意欲に深刻なダメージを与えます。しかし,セクハラは「冗談」や「コミュニケーションの一環」と誤解されることも少なくありません。
このコラムでは,職場で発生するセクハラ問題について,原因やそれに対処するための方法等について解説していきたいと思います。

※こちらの記事は職場におけるパワハラ問題について解説しております。併せてご覧下さい!

目次

セクハラとは

セクハラとは,職場や学校など社会的な場において,他者に対して不快感や屈辱を与える性的な言動や行動のことを指します。
具体的には,性的な冗談,性的な発言,身体的接触,望まない性的な関心の表明などが含まれます。これにより,相手に精神的な苦痛や不安をもたらし,健康や仕事・学業に悪影響を及ぼすことがあります。

日本では,1991年に福岡地方裁判所で初めてセクハラ訴訟が認められ,このことが日本におけるセクハラ問題に対する関心を高めるきっかけとなり,この事件以降,セクハラは日本社会でも大きな社会問題として認識されるようになり,メディアでも頻繁に取り上げられるようになりました。

セクハラは,特に権力関係が強い職場で発生しやすいとされています。
上司が部下に対して圧力をかけたり,性的な要求をしても立場的に断りにくい状況が生まれやすいのです。

職場におけるセクハラ

厚生労働省は職場におけるセクハラを以下のように定義しています。

職場におけるセクシュアルハラスメントは,「職場」において行われる,「労働者」の意に反する「性的な言動」に対する労働者の対応によりその労働者が労働条件について不利益を受けたり,「性的な言動」により就業環境が害されることです。

出典:厚生労働省「職場のセクシュアルハラスメント対策はあなたの義 務 です!!」

「職場」とはどの範囲?

「職場」とは,単に業務を行う物理的な場所だけでなく,業務に関連する広範な場所や状況を指します。

通常の就業場所だけでなく,

  • 出張先
  • 業務で使用する車中
  • 取引先の事務所
  • 顧客の自宅
  • 宴会や懇親の場

業務に関連するありとあらゆる場所が含まれます。
上記にある宴会や懇親の場など勤務時間外であっても,実質上職務の延長と考えられる状況も「職場」と見なされます。

このように「職場」の範囲は広く,従業員が業務に関連している限り,セクハラの対象となり得るのです。

「労働者」とは?

職場におけるセクハラにおいて「労働者」とは,正社員に限らず,契約社員,派遣社員,パートタイマー,アルバイト,研修生,インターン生,さらには管理職や役員など,企業や組織で働く全ての人を指します。

「性的な言動」とは?

他者に対して性的な意味を含む発言や行動を指します。
以下,職場でよく見られる性的な言動の具体例です。

性的な発言
  • 性的な冗談や軽口
    ・・・「もっとセクシーな服を着た方がいいよ」や「色っぽいね」など,性的な冗談やコメント。
  • 外見や服装に関する不適切なコメント
    ・・・「今日のスカート、短すぎるんじゃない?」や「体型がいいね,もっと見せた方がいいよ」といった外見や服装についての評価。
  • 性的な質問
    ・・・「彼氏いるの?」「夜は何してるの?」など,プライベートな性的な生活に関する質問。
  • 性的な関係を求める発言
    ・・・「デートしてくれたら昇進させてあげるよ」「一緒に過ごそうよ」など,性的な行為をほのめかす発言。
性的な行動
  • 不必要な身体的接触
    ・・・肩に触れる,抱きつく,手を握る,髪をなでるなど,相手が望んでいない身体的な接触。
  • 性別に関連する特定の身体部位への接触
    ・・・腰や背中,太ももなど,相手の体に性的な意図を持って触れる行為。

他にも性的な行動として,相手の体をじろじろ見たり,メールやチャットなどデジタルツールを通じて,性的な内容を含むメッセージや画像を送る,あるいは職場で見せる行為,他者のプライベートな性的関係についての噂を広めたり等する行為があり得ます。

職場におけるセクハラの種類

職場におけるセクハラには,主に以下の2つの種類があります。
それぞれの種類が,異なる状況で発生し,被害者に異なる形で影響を与えることがあります。

対価型セクハラ

対価型セクハラとは,上司や権限を持つ立場の人が,従業員に対して昇進や待遇の改善などの見返りとして,性的な関係や行動を求める場合のセクハラです。もしその要求に応じなければ,不利益があると暗示されたり,実際に不利益を受けたりする場合があります。

対価型セクハラの特徴
1.昇進や給与の条件として性的要求を行う

上司が「このプロジェクトを成功させたら食事に行こう」「デートに応じれば昇進させる」といった形で、仕事の見返りとして性的な関係を要求する。

2.拒否した場合の不利益をほのめかす

「俺の誘いを断ったら昇進できない」「私の言うことを聞かなければ仕事が回ってこない」といった脅しのような言動も含まれます。被害者が性的な要求を拒否した場合に、実際に昇進が見送られたり、仕事の割り当てが減らされるなどの不利益を被ることもあります。

3.権力関係の悪用

対価型セクハラは、主に上司と部下など、権力関係が明確な場面で発生します。加害者は自分が持つ権力や影響力を利用して、部下に不当な要求を突きつける形で行います。

このような行為は明確に違法であり、従業員が公正に評価されるべき職場の倫理を侵害します。

環境型セクハラ

環境型セクハラは,職場で繰り返される性的な言動や行動が,職場環境を不快なものにし,業務に支障をきたす場合のセクハラです。これに該当するのは、性的な言動や振る舞い、嫌がらせが職場全体に悪影響を与えるケースです。

環境型セクハラの特徴
1.性的な冗談やコメントの頻発

日常的に性的な冗談や下ネタが飛び交い、それに対して不快感を持つ人がいる場合。

2.ポルノや性的な画像の表示・共有

職場で不適切な性的な画像や動画を見せたり、共有する行為。例えば、オフィスのコンピュータでポルノサイトを見る、デスクトップに性的な画像を置くなど。

3.性的な話題の強調

会話やミーティングで不必要に性的な話題が持ち込まれ、従業員が不快に感じる状況。

4.性差別的なコメント

男女の役割に対して固定的な考え方を持ち、「女性はこうあるべき」「男性らしくない」といった性差別的な発言が繰り返される。

5.職場の文化としてのセクハラ容認

セクハラ的な行動が日常的に行われているが、周りの人々がそれを指摘せず、あるいは笑いながら容認している場合。

環境型セクハラは,被害者が加害者から特定の要求を受けていなくても,職場の雰囲気が性的な要素で不快なものとなり,仕事に集中できなくなる状況を作り出します。

セクハラの判断基準

厚生労働省は以下のように定義しています。

一般的には意に反する身体的接触によって強い精神的苦痛を被る場合には,1回でも就業環境を害することとなり得ます継続性又は繰り返しが要件となるものであっても,「明確に抗議しているにもかかわらず放置された状態」又は「心身に重大な影響を受けていることが明らかな場合」には就業環境が害されていると判断し得るものです。また,男女の認識の違いにより生じている面があることを考慮すると,被害を受けた労働者が女性である場合には「平均的な女性労働者の感じ方」を基準とし,被害を受けた労働者が男性である場合には「平均的な男性労働者の感じ方」を基準とすることが適当です。

出典:厚生労働省「職場のセクシュアルハラスメント対策はあなたの義 務 です!!」

セクハラの状況は様々で,判断に当たり個別の状況を考慮する必要があります。


しかし,セクハラは相手が不快に感じるかどうかが重要であり,加害者が冗談や好意のつもりであっても,被害者が嫌だと感じた場合,それはセクハラとなり得ると考えます。

職場のセクハラの原因と背景

職場でセクハラが発生する主な原因は,職場文化,権力関係,性別に対する固定観念,教育不足など多岐にわたります。これらの要因が重なり合って,セクハラが発生しやすい環境が生まれることが多いのです。

権力関係の不均等

職場内での上下関係や権力の差がセクハラを引き起こす大きな要因となります。上司が部下に対して,立場を利用して不適切な要求を行う場合,部下はその要求に逆らいにくくなります。例えば,昇進や業務内容の配分に関する決定権を持つ上司が,部下に対して性的な言動をしても,部下は仕事上の不利益を恐れて声を上げにくい状況が生まれます。

職場文化や慣習

企業の文化や慣習がセクハラを許容する環境であれば,セクハラが発生しやすくなります。特に性別に基づく役割分担意識が強い職場では,男性が優位に立ち,女性が従属的な立場に置かれることがあります。このような環境では,性的な発言や不適切な態度が軽視されることが多く,問題視されにくい傾向があります。

性別に対する固定観念やステレオタイプ

性別に対する偏見や固定観念が,セクハラを助長する原因の一つです
男性は積極的であるべき,女性は控えめであるべきという古い価値観が職場に残っている場合,男性が女性に対して不適切な言動をしても「自然なこと」として見過ごされることがあります。また,女性が容姿についてコメントされることが当たり前とされる職場では,外見や服装に対する評価がセクハラの温床になることがあります。

無意識のバイアスと教育不足

一部の人は,無意識のうちに他者を傷つける行動を取ってしまうことがあります。性に関する無意識のバイアスや,セクハラに対する教育が不足していることで,何が不適切な行動なのかを理解していないことが原因です。特に新入社員や若手社員が,セクハラに関する知識が不足していると,無意識のうちに相手に不快感を与える行動を取ってしまうことがあります。

プライベートと職場の境界が曖昧になる場面

飲み会や社員旅行など,職場外の活動でプライベートと仕事の境界が曖昧になる場面で,セクハラが発生しやすくなります。特にお酒が入る場面では,普段の自制心が緩み,不適切な行動が発生しやすくなるのです。

セクハラを防ぐためには,企業全体での意識改革が重要であり,明確なガイドラインの設定や,従業員に対する教育が不可欠と考えます。

セクハラ事件の判例 ー事実認定には被害者の心理分析が重要ー

被害者が抵抗しなかったとセクハラの成立を否定したが,被害者の心理分析をもとにセクハラの事実認定がなされた事例

横浜セクハラ事件

加害者の男性は,職場において被害者の女性に身体的接触を繰り返し行っていた。
具体的には,肩を抱き寄せたり,髪や腰を触る,20分程度執拗に抱きつき,無理矢理キスや衣服の上から胸,下腹部等を触った。
被害女性は加害者男性の上司(男性)に,わいせつ行為があった事実を告げたが,上司は被害女性に対し仕事をさせないようにし,退職に追い込んだ。

第一審では,被害女性が大声を出したり,外に逃げ出すなどして助けを求めなかったことや,このような行為があった直後も,被害女性は普段と変わらず職場で昼食をとっていたことを疑問視してセクシュアルハラスメントの成立を否定した。

しかし,控訴審ではセクハラを否定した原審の判決が取り消され,加害者男性の不法行為,男性上司の使用者責任を認めた。
その要因として,アメリカにおける強姦被害者の対処行動に関する研究が証拠として提出され,それによると被害者は大声を出すことや,外に逃げ出し助けを求める等の行動とは異なる行動を取ること等,被害女性の心理分析をもとに女性の供述を認定されました。

セクハラ事件の事実認定は,被害者の心理状況や置かれている状況など十分に考慮する必要があるようです

セクハラ被害者の心理

立命館大学大学院法務研究科教授 松本克美氏によると,

被害者が被害をすぐに第三者に知らせていないとか,被害を受けたという日以降も平静と変わらない様子であった,被害者が加害者に感謝の意を表明したり,親密さを示すメールなどを送っている,あるいは被害を受けたというのにその後も性的関係に応じているなどのことをもって,セクハラ被害者の供述の信用性を否定する要素とされることがある。
しかし,これも後述するようにセクハラ被害者がすぐに被害を訴えなかったり,被害を受けた後も平静と変わらない様子であること,被害者が加害者に迎合的なメールを送ったり,被害を受け続けることは,被害者心理を分析する近時の精神医学や臨床心理学的知見によれば,セクハラ被害を受けた被害者としてむしろ通常あり得る反応であって,これらをもって
セクハラ被害を否定する根拠とすること自体が誤りであることが明らかにされてきている。

出典:「セクシュアル・ハラスメント被害の法心理」 松本克美 立命館大学大学院法務研究科教授

被害者は,自分が性的な被害にあったと他人に訴えることを性的羞恥心が妨げたり,被害にあってからもどうしていいかわからずに,誰にも知られたくないという思いから,普段通りの行動をするという人も決して珍しくないようです。

職場でセクハラ被害にあった場合の対応

職場でセクハラ被害にあった場合,適切な手順を踏むことが重要です。
以下は,セクハラ被害に対する具体的な対応策になります。

記録を残す

セクハラが発生した場合,まず重要なのは詳細な記録を残すことです。これは,後にセクハラを報告する際の重要な証拠となります。
セクハラ行為が行われた日時・場所・加害者の発言や行動・第三者がいた場合はその人物の名前などを詳細にメモしておきましょう。

信頼できる同僚や上司に相談

前項にもあるように,セクハラ被害を受けたと人に話すのは非常に勇気がいることですが,被害を受けた際は,すぐに一人で抱え込まず,信頼できる人に相談することが大切です。相談することで精神的なサポートを受けるだけでなく,状況を冷静に見つめる助けになります。

セクハラ相談窓口に連絡する

多くの企業には,セクハラ相談窓口やハラスメント対策担当者がいます
会社によっては,匿名での相談が可能な場合もありますので,報復を恐れずに問題を報告できるため、安心して利用できます。

法的支援を検討する

企業内での対応が十分でない場合や,被害が深刻な場合は,労働問題に詳しい弁護士や労働基準監督署に相談し,法的支援を求めることもも選択肢の一つです。
法的なアドバイスや,被害者の権利を守るために適切な手続きを提案し,サポートしてくれます。

まとめ

職場のセクハラは,被害者だけでなく職場全体に悪影響を及ぼす問題です。
セクハラは被害者が受ける精神的・身体的なダメージが非常に大きいため,早期に相談し適切な対処を取らなければなりません
また,企業や従業員は,セクハラを未然に防ぐための対策や意識の向上が求められます

次回はセクハラに対する企業の責任や対応等,企業がすべきことなどを解説していきたいと思います。

法律事務所リベロ

所長 弁護士 渡辺秀行(東京弁護士会)

特許事務所にて 特許出願、中間処理等に従事したのち、平成17年旧司法試験合格。
平成19年広島弁護士会に登録し、山下江法律事務所に入所。
平成23年地元北千住にて独立、法律事務所リベロを設立。


弁護士として約17年、離婚、相続、債務整理、交通事故、労働問題、不動産、刑事事件、消費者事件、知的財産、企業法務等、多岐に渡って相談をお受けしております。事件に対する、粘り強く、あきらめない姿勢が強みです。極真空手歴約20年。
法律事務所リベロは北千住徒歩7分の地域密着型法律事務所です。堅苦しくなく、依頼者の方が安心して相談出来る事務所です。お気軽にご相談ください。

法律事務所リベロ

所長 弁護士 渡辺秀行

  • 東京弁護士会所属
  • 慶応大学出身
  • 平成17年旧司法試験合格

弁護士として約17年、離婚、相続、債務整理、交通事故、労働問題、不動産、刑事事件、消費者事件、知的財産、企業法務等、多岐に渡って相談をお受けしております。事件に対する、粘り強く、あきらめない姿勢が強みです。極真空手歴約20年。
法律事務所リベロは北千住徒歩7分の地域密着型法律事務所です。堅苦しくなく、依頼者の方が安心して相談出来る事務所です。お気軽にご相談ください。

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