特別受益の「持戻し免除の意思表示」について解説!

監修者:弁護士 渡辺秀行 法律事務所リベロ(東京都足立区)所長弁護士

監修者:弁護士 渡辺秀行

 法律事務所リベロ(東京都足立区)
 所長弁護士

目次

持戻免除の意思表示とは

このコラムでは,特別受益についての解説をしております。特別受益について詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

相続人が特別受益にあたる贈与を受けた場合,その特別受益の金額を相続財産に加算して(持戻して),各相続人の相続分を計算することになりますが,その持戻し計算を免除する意思表示のことを,持戻免除の意思表示と言います。

被相続人が,相続開始時までに,特別受益を遺産分割において持戻しする必要がない旨,意思表示すれば,持戻し計算をすることなく,各自の相続分を計算することになります。持戻しの意思表示は,明示的に示されるものだけでなく,黙示的に示されるものでもよいとされています。他の相続人にとっては不公平に感じると思われますが,生前贈与や遺贈をその者の特別な取り分として与えようとする被相続人の意思を尊重するもので,民法上認められている制度です。

持戻し免除の意思表示に関するQ&A

どういった方法で,持戻し免除の意思表示はする必要があるのですか?
  • 生前贈与の場合

持戻し免除の意思表示の方法には,特別の方式はありません。生前贈与と同時でなくとも,明示であっても,黙示であっても,構わないとされています。実際のところ,生前贈与において,持ち戻し免除の意思表示が明示的にされることは少なく,むしろ,黙示の意思表示があったかどうかが問題となるケースの方が多いように思われます。

  1. 遺贈の場合

遺贈は,遺言によってされるため,持戻し免除の意思表示も遺言の方式によってされなくてはならないとの説もありますが,法律上,持戻免除の意思表示は遺言でしなくてはならないと規定されておりませんので,遺言の方式に限る必要はないと考えられています。

そもそも,持戻し免除の意思表示という制度自体,余り知られていないため,遺言に限った場合には,それが認められるケースが非常に限られ,被相続人の意思が尊重されなくなってしまいます。ただし,以下の判例のとおり,遺贈の場合には,生前贈与の場合に比べて,より明確な持戻し免除の意思表示が必要とされています。

抗告人に対する特別受益は本件遺言によるものであるところ,本件遺言には持戻免除の意思表示は記載されていない上,仮に遺言による特別受益について,遺言でなくとも持戻免除の意思表示の存在を証拠により認定することができるとしても,方式の定められていない生前贈与と異なり,遺言という要式行為が用いられていることからすれば,黙示の持戻免除の意思表示の存在を認定するには,生前贈与の場合に比べて,より明確な持戻免除の意思表示の存在が認められることを要すると解するのが相当である。」

大阪高等裁判所平成25年7月26日決定
どういった場合に,黙示の持戻し免除の意思表示があったと判断されるのですか?

被相続人が特定の相続人に対して,相続分以外に財産を相続させる意思を有していたことを推測させる事情があったかによって判断されます。以下のような場合に,黙示の持戻し免除の意思表示があったと認められることがあります。

  • 肉体的又は精神的な病気に罹患し,自立した生活が困難な相続人に対し,生活保障のため贈与した場合
  • 相続人が,被相続人を扶養するために,被相続人所有の土地の上に建物を建築し,被相続人がその相続人に土地を無償で使用させるような場合
  • 被相続人が相続人全員に生前贈与をしているような場合
  • 家業である農業を継ぐ相続人に,田畑や山林などをを贈与した場合(福岡高裁昭和45年7月31日決定)
民法改正により,夫婦間で持戻し免除の意思表示が推定される規定が設けられましたが,それはどういった制度ですか?
  • 改正の背景

婚姻期間が長い老齢の夫婦の一方が他方に対して居住用不動産を贈与する場合,通常それまでの長年の貢献に報いるとともに,その老後の生活の安定を図るために行われるため,そのような夫婦間で居住用不動産を贈与があった場合には,持戻し免除の意思表示があったものと推定する規定を設け,優遇することになりました。

  1. 要件
  • 婚姻期間が20年以上の夫婦であること

→結婚,離婚,再婚を繰り返していたとしても,婚姻期間が通算して20年以上あればこの要件を満たします。
→事実婚の場合にはこの要件をあたりません。

  • 居住用不動産の贈与又は遺贈がされたこと

→居住用不動産の購入資金の贈与がされ,これについて贈与税の特例(※)が適用されるケースでは,実質的には,居住用不動産の贈与がされたと評価され,この規定が適用されると考えられているようです。

相続税法では,婚姻期間が20年以上である配偶者から居住用不動産の贈与を受けた倍だけでなく,

  • 金銭の贈与を受け,
  • その金銭で居住用不動産を取得した場合で,
  • その贈与を受けた年の翌年の3月15日までにその居住用不動産の取得に充てた部分の金銭の限度で,

贈与税の特例の適用を受けることが出来ると規定しています。

配偶者居住権が遺贈された場合,持戻し免除の意思を表示されたものと推定されますか?

婚姻期間が20年以上の夫婦間で,配偶者居住権が遺贈された場合,配偶者は,遺言に基づいて建物について配偶者居住権を取得しますが,この配偶者居住権は他の遺贈と同様,特別受益にあたります。

これについては,民法上,持戻し免除の意思を表示したものと推定するとされています(民法1028条3項,903条4項準用)

配偶者居住権についてはこちらの記事で詳しく解説しています。

法律事務所リベロ

所長 弁護士 渡辺秀行(東京弁護士会)

特許事務所にて 特許出願、中間処理等に従事したのち、平成17年旧司法試験合格。
平成19年広島弁護士会に登録し、山下江法律事務所に入所。
平成23年地元北千住にて独立、法律事務所リベロを設立。


弁護士として約17年、離婚、相続、債務整理、交通事故、労働問題、不動産、刑事事件、消費者事件、知的財産、企業法務等、多岐に渡って相談をお受けしております。事件に対する、粘り強く、あきらめない姿勢が強みです。極真空手歴約20年。
法律事務所リベロは北千住徒歩7分の地域密着型法律事務所です。堅苦しくなく、依頼者の方が安心して相談出来る事務所です。お気軽にご相談ください。

法律事務所リベロ

所長 弁護士 渡辺秀行

  • 東京弁護士会所属
  • 慶応大学出身
  • 平成17年旧司法試験合格

弁護士として約17年、離婚、相続、債務整理、交通事故、労働問題、不動産、刑事事件、消費者事件、知的財産、企業法務等、多岐に渡って相談をお受けしております。事件に対する、粘り強く、あきらめない姿勢が強みです。極真空手歴約20年。
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