【相続】令和2年4月1日より施行された配偶者居住権とは?

配偶者居住権とは,夫婦の一方がなくなった場合に,遺された配偶者が亡くなった人が所有していた建物に,自身が亡くなるまでまたは一定の期間,無償で居住することが出来る権利です。

配偶者居住権は,夫婦の一方が亡くなった場合に,遺された配偶者の居住権を保護するため,令和2年4月1日以降に発生した相続から新たに認められた権利です。
建物の価値を「所有権」と「居住権」に分けて考え,遺された配偶者は建物の所有権を持っていなくても,
一定の要件の下,居住権を取得することで亡くなった人が所有していた建物に,引きつづき住み続けられるようにするものです。

目次

配偶者居住権の成立要件

配偶者居住権の成立要件(民法1028条1項,同544条)は次の2つです。

  • 配偶者が相続開始時に被相続人所有の建物に居住していたこと
  • その建物について配偶者に配偶者居住権を取得させる旨の遺産分割,遺贈または死因贈与がされたことです。

それぞれの項目について以下で解説いたします。

配偶者が相続開始の時に被相続人所有の建物に居住していたこと

ここでいう“配偶者”とは,法律上被相続人と婚姻していた者に限られ内縁の配偶者は含まれないとされています。
また配偶者居住権の目的となる建物は,相続開始のときに被相続人の単独所有あるいは配偶者と二人の共有の所有物である必要があるとされています。
従って相続開始の時に,被相続人がその建物を第三者と共有していた場合には,配偶者所有権は成立しません。

また,“居住していた”とは,配偶者が当該建物を生活の本拠としていたことを意味し,入院していて一時的にその建物を離れていたような場合でも,その建物に戻ることとされていた場合には,配偶者居住権は成立し得ると考えられています。

当該建物について配偶者に配偶者居住権を取得させる旨の遺産分割,遺贈または死因贈与がされたこと

遺産分割協議や遺産分割調停,審判によって,配偶者に配偶者居住権が与えられることが定められれば配偶者居住権が成立します。

また,被相続人は遺言によって配偶者に配偶者居住権を取得させることは出来ますが,遺贈によることが必要とされています。
これは配偶者が配偶者居住権の取得を希望しない場合に,相続放棄することなく,遺贈の放棄によって配偶者居住権の取得を拒絶できるようにしたものです。
遺贈についてはこちらのコラムをご覧ください。

なお,当該建物が第三者に遺贈されている場合や,配偶者以外の他の相続人に生前贈与・遺贈・特定財産承継遺言がされた場合には
居住建物は遺産分割の対象外となり,配偶者が配偶者居住権を取得することは出来ないとされています。

配偶者居住権の内容

1 存続期間

原則として,配偶者居住権の存続期間は,配偶者の終身の間とされています。
ただし遺産分割協議・審判,遺贈、死因贈与で存続期間を定めることも出来るとされています。
なお,終身とした場合,配偶者居住権の財産的価値が高額となるため,配偶者は流動資産などの財産を取得する額が少なくなるという不利益が生じる可能性もあります。

2 第三者に対する対抗要件

配偶者が配偶者居住権を第三者に対抗するには,配偶者居住権の登記をすることが必要とされています。
建物賃貸借の場合には,第三者への対抗要件として建物引き渡しで足りるとされていますが,配偶者居住権の場合には登記が必要です。
そのため,居住建物の所有車は配偶者に対し,配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負っています。

効力

配偶者は配偶者居住権に基づき,無償で居住建物の全部を使用及び収益することが出来るとされています。
収益とは,例えば,居住建物の一部で飲食店や小売店を営業することが出来るということです。
ただし,配偶者以外の第三者に居住建物を使用・収益させることは原則として出来ず,建物所有者の了解が必要とされています。

配偶者居住権の消滅要因

配偶者居住権の消滅要因には以下のようなものがあります。

  • 配偶者居住権の放棄
    配偶者は自らの意思で放棄することができます。
  • 配偶者の死亡
    配偶者居住権は配偶者が死亡した場合に消滅します。

配偶者居住権に関するQ&A

配偶者居住権が特定財産承継遺言(「相続させる旨」の記載の遺言のうち遺産の分割の方法が指定されたもの)に定められていた場合,配偶者に配偶者居住権を取得させることは出来ますか?

配偶者居住権については遺贈でしなくてはならないとされていますが,特定財産承継遺言によった場合であっても,配偶者が配偶者居住権を希望している場合には,遺言書全体の記載からこれを遺贈の趣旨と解することに特段の疑義が生じない限り,配偶者居住権に関する部分を遺贈の趣旨であると解して,「遺贈」 を登記原因とする配偶者居住権の設定の登記をすることが可能と解されています。

配偶者居住権を定めた場合に,その更新,延長をすることは出来ますか?

出来ないとされています。それらを認めると,配偶者居住権の財産的評価を適切に行うことが困難になるからです。ただし,新たに賃借権契約や使用貸借契約を結ぶのは可能と解されています。

配偶者は,配偶者居住権の存続期間の一部を放棄して,その存続期間を終身の間より短期とする配偶者居住権の設定の登記を申請することは出来ますか?

出来ます。その場合,登記原因情報として,配偶者が配偶者居住権の存続期間の一部を放棄した旨の情報を提供する必要があります。

配偶者が存続期間満了前に配偶者居住権を放棄等した場合において,居住建物の所有者は,配偶者が死亡し,相続が開始した場合に,配偶者居住権の残存期間に相当する価額について特別受益があったとされますか?

特別受益があったといえます。ただし,被相続人である配偶者と居住建物の所有者(配偶者の相続人)との関係性や生活状況等から,配偶者居住権を放棄することについて被相続人(配偶者)が持戻し免除の意思表示をしていたと認められる場合もあると思われます。

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