【相続】お墓は相続財産?相続財産に属さない被相続人の財産・権利について
相続において,被相続人が所有している財産や権利が相続の対象になるのかについて悩む方もいるのはないでしょうか。このコラムでは,相続財産に属さない被相続人の財産・権利について解説していきたいと思います。
相続財産に属さない被相続人の財産・権利
被相続人の財産であっても,以下のようなものは,相続人に承継されません。
1 一身専属権
養育費請求権,財産分与請求権などは原則として,相続の対象になりません。
ただし,調停や裁判などで,具体的金額が確定し,支払期限が到来したものは相続の対象となります。例えば,養育費が5万円と定まり,1年分滞納された段階で亡くなられてしまった場合,5万円×12ヶ月=60万円は相続の対象となります。
2 祭祀財産
祖先の祭祀の主宰者が取得します。
祭祀財産とは?
祖先をまつるために必要となる財産の総称。
①系譜(家系図等),②祭具(位牌・仏像・仏壇・神棚等),③墳墓(墓地・墓碑等)の3種類に分類される。
3 遺骨
判例上,祭祀財産に準じて扱うとされています。
4 契約上の地位
- 相互の信頼関係が重視されない契約上の地位
売買の売主としての地位などは,承継されます。従って,売主として,買主に目的物を納品する義務や買主として未払い代金を支払う義務は承継されます。
- 相互の信頼関係を重視する契約上の地位
定期贈与,委任契約,使用貸借契約など,相互の信頼関係を重視する契約上の地位は,原則としては相続されません。例えば,毎月5万円,定期贈与を受けることの出来る受贈者としての地位は相続されません。また,弁護士が亡くなった場合,弁護士委任契約に基づく代理人の地位は承継されません。さらに,被相続人が友人から建物を無償で借りていた場合(使用貸借契約)に,借主の地位は承継されません。
相互の信頼関係を重視する契約上の地位のうち、例外として相続されるもの
① 親族間の建物所有目的での土地の使用貸借契約における借主の地位
東京地裁平成5年9月14日判決は,
「・・・土地に関する使用貸借契約がその敷地上の建物を所有することを目的としている場合には,当事者間の個人的要素以上に敷地上の建物の建物所有の目的が重視されるべきであって,特段の事情のない限り,建物所有の用途にしたがってその使用を終えたときに,その返還の時期が到来するものと解するのが相当であるから,借主が死亡したとしても,土地に関する使用貸借契約が当然に終了するということにならないというべきである」
東京地裁平成5年9月14日判決
としています。従って,親族間の建物所有目的での土地の使用貸借契約における借主の地位は承継されます。
② 親族間の建物の使用貸借契約における借主の地位
東京高裁平成13年4月18日判決は,
「・・・本件のように貸主と借主との間に実親子同様の関係があり,貸主が借主の家族と長年同居してきたような場合,貸主と借主の家族との間には,貸主と借主本人との間と同様の特別な人間関係があるというべきであるから,このような場合に民法599条は適用されないものと解するのが相当である」
東京高裁平成13年4月18日判決
として,借主の地位の承継を認めています。
③ 使用貸借の貸主の死亡と同居相続人の地位
最高裁平成8年12月17日判決は,
「・・・共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは,特段の事情のない限り,被相続人と右同居の相続人との間において,被相続人が死亡し相続が開始した後も,遺産分割により右建物の所有関係が最終的に確定するまでの間は,引き続き右同居の相続人にこれを無償で使用させる旨の合意があったものと推認されるのであって,被相続人が死亡した場合は,この時から少なくとも遺産分割終了までの間は,被相続人の地位を承継した他の相続人等が貸主となり,右同居の相続人を借主とする右建物の使用貸借契約関係が存続することになるものというべきである。」
最高裁平成8年12月17日判決
として,貸主の地位が承継される旨の判断をしています。
遺産であっても遺産分割の対象とならない財産
相続の対象となる遺産がすべて遺産分割の対象となるわけではありません。
1 預貯金以外の可分債権
被相続人が第三者に対して有していた債権のうち,分割可能な債権(可分債権。預貯金債権を除く(詳細は下記に記載しています。))は,遺産分割を経ずとも当然に法定相続分の割合で分割されるため,遺産分割の対象とはなりません。
例えば,売買契約に基づく代金支払請求債権,賃貸借契約に基づく賃料請求権,協同組合の出資金返還請求権,不法行為に基づく損害賠償請求権などは当然に分割されます。従って,交通事故にあった被相続人の各相続人は,遺産分割前にも,法定相続分の割合に従って,損害賠償請求が出来ます。ただし,相続人間の合意がある場合は,遺産分割の対象に含めることが出来ます。
2 相続債務
相続債務は,原則として,相続開始と同時に法定相続割合に応じて相続人が承継するため,遺産分割の対象とはなりません。
預貯金債権の扱いと遺産分割の方法について
平成28年及び平成29年に最高裁判例が出て,ゆうちょ銀行に対する通常貯金債権,定期貯金債権,ゆうちょ銀行以外の銀行に対する普通預金債権,定期預金債権,定期積金債権は,相続開始と同時に分割されることはなく,遺産分割の対象となることが確立しました。
これらの判例によって,それ以外の預貯金(定額貯金,当座預金など)も遺産分割の対象になると考えられています。従って,原則として,相続人は遺産分割が終了する前に,預貯金を払い戻すことは出来ません。
そして,調停や審判では,一口座につき複数の相続が取得するということは稀で,通常は相続人の一人が取得し他の相続人には代償金を支払うという方法をとります。なぜなら,一つの口座を複数の相続人が取得する場合,解約等の手続きが大変だったり,端数処理の問題が生じるからです。
例えば,遺産として,〇〇銀行に1000万円の預金,△△銀行に500万円の預金ある場合,相続人Aが両口座の預金(1500万円)を取得し,相続人B,Cには500万ずつ代償金を支払うという形をとることが多いです。
相続人が遺産分割確定前に,被相続人の預貯金を払い戻したい場合については,こちらの記事で詳しく説明しています。