知的財産コラム~特許を得るためには?~
知的財産問題と弁護士
知的財産の分野は、専門性が高いため一般に弁護士が広く取り扱っている分野ではありません。
しかし、当事務所では、所長である渡辺が理工系の大学、大学院を卒業後、特許事務所に勤務し、特許明細書作成・中間処理業務等に多く携わってきたことから、知的財産権の問題には特に力を入れています。
特許権について
特許権とは、特許庁が新しいかつ、有用であると認められた発明を出願した人に与えられる、その発明について一定期間、独占的且つ排他的に使用できる権利です。
特許登録を受けるための要件
特許登録を受けるためには、特許法上の発明に該当していること及び特許を受けることができる発明であることが要件となります。
特許法上の発明に該当していることの具体例
- 自然法則を利用していること
→トランプのルールや、数学上の公式、万有引力そのものは、特許登録を受けることが出来ません。 - 技術的思想であること
→絵画、彫刻は、美的創造物に該当しますので、特許登録を受けることが出来ません。また、いわゆる技能といわれるもの(変化球の投げ方)も、特許登録を受けることはできません。 - 創作されたもの
→新しい天然物を発見しても、創出したわけではありませんので、特許登録を受けることができません。 ただし、天然物から人為的に単離した化学物質、例えば、味の素(グルタミン酸塩)は、発明に該当します。 - 高度であること
→実用新案権との違いです。
特許を受けることができる発明であることの具体例
- 産業上利用できること
→手術方法(採血方法等)の発明、治療方法(マッサージ方法)の発明、実験にのみ利用される発明は、産業上利用出来ないので、特許登録を受けることができません。 - 新しいこと(新規性)
→特許出願前に、テレビ放映されたり、店で販売されたり、雑誌(外国の雑誌も含みます)に掲載されたり、インターネットで公開された技術は、特許登録を受けることができません。 - 容易に考えることができないこと(進歩性)
→容易に出来る程度の発明に特許権を付与すると、独占権が乱立し、産業の発達を阻害することになりますので、そのような発明は特許登録を受けることができません。
進歩性があるか否かは、当業者(その技術分野の通常の知識のある人)が、公知技術等から容易に考えられることが出来るかによって判断します。発明の寄せ集めや発明の構成の一部の置き換えなどの場合には、進歩性が否定されます。 - 先願であること
→先に発明をした者ではなく、先に出願した者が特許権者になります。
先の出願と後の出願が、完全に同一でなくても、実質的に同一と判断されれば、後願は特許登録を受けることが出来ません。以下のような場合には、実質的に同一と判断されます。 - 公益に反しないこと
→アヘン吸引器や紙幣偽造機械などは特許登録出来ません。
特許出願から審査の流れ
特許出願に必要な書類と手続き
- 願書…発明者や出願人等を記載します。
- 明細書…発明の内容を記載します。
- 特許請求の範囲…求める権利の範囲を記載します。
- 要約書…発明全体のポイントを簡略に記載します。
- 図面…発明の内容理解に役立つ情報を記載します。(必須ではありません)
上記①~⑤のほかに出願料として15,000円が必要になります。
また出願の手続きはパソコンによる電子出願と郵送で出願する書面による出願があります。
ただし書面の場合、電子化に要する費用として(1,200円+700円×枚数)を負担する必要があります。
出願後の審査
特許出願された発明が、特許として登録されるかどうかは、特許庁の審査官による実体審査で判断されます。この実体審査は全ての特許出願に対して行われるのではなく、出願審査の請求があった出願だけが審査されます。
以下のような場合には、審査請求されないことが多いです。
① 出願後、陳腐化した場合
② 防衛的出願(他人の同一発明の権利化防止のため)など
出願審査を請求するためには、
1出願につき、118,000円+4,000円×請求項
の費用が必要です。
また審査官が、拒絶理由を発見した場合(進歩性がない等)、そのまま拒絶査定をするわけではなく、まずは、出願人に拒絶の理由を通知し(拒絶理由通知書が送られます)、それに対する出願人の意見を聞きます。
この段階で、出願人としては、従来技術との違いを述べた意見書を提出したり、違いを明確化するために、特許請求の内容等を修正する補正書を提出することが出来ます。
意見書、補正書等で、拒絶理由が解消された場合、特許査定が下されます。
一方、拒絶理由が解消されていない場合、拒絶査定が下されます。
なお、実務上、拒絶理由の多くは、新規性、進歩性の欠如か、明細書の記載が明瞭でないとする記載不備に関するものです。
特許権の存続期間
特許権の存続期間は、出願から最長20年です。
なお、一部の技術分野(医薬品等)では、他の法律による許認可等が必要とされ、許認可が下りるまで、時間がかかるため、存続期間の延長の制度が設けられております(最長25年まで)。