
企業におけるセクハラ問題-責任・初動対応・防止策まで解説!-

近年,職場におけるセクシュアルハラスメント(セクハラ)問題は,企業の信頼性や社会的責任を問う重大な課題となっています。
本記事では,セクハラが発生した際の企業の責任や初動対応,再発防止策まで,実務に役立つ視点から解説します。

こちらのコラムは,職場におけるセクハラについてどのような言動がセクハラに該当するのか,なぜセクハラがおこるのかを詳しく解説していますので,ぜひ併せてご覧下さい。
なぜ,企業はセクハラ対策が重要なのか?

セクハラ問題は“個人の問題”から“組織の責任”へ
以前は個人間のトラブルとみなされがちだったセクハラも,現代では企業が組織的に対応すべき問題として捉えられるようになりました。
これは,社会全体の人権意識の高まりや,職場の多様性が進んだことによるものです。
たとえば、国際的な#MeToo運動をきっかけに,被害を訴える声が可視化され,「沈黙していた側」が声を上げやすい社会的雰囲気が生まれました。
このような背景により,企業のハラスメント対策は“社会的責任”と見なされるようになっています。
増加するセクハラ相談件数と法的リスク
厚生労働省の令和5年度「都道府県労働局雇用均等室に寄せられたセクハラ等の相談件数」は約7千件を超えています。
これは実際に相談に至った数であり,潜在的な被害はさらに多いと考えられています。
こうした現状を放置すれば,企業は次のようなリスクを負うことになります。
- 加害者・被害者双方の退職による人材流出
- 被害のSNS投稿などによる企業イメージの毀損
- 労働局や裁判所からの行政指導や損害賠償請求
- 内部管理体制の甘さや,組織としての対応の不備が問われる可能性
「働きやすい職場」こそが採用・定着のカギ
労働人口が減少する中,優秀な人材を確保するためには,単に給与や待遇だけでなく,「安心して働ける職場」であることが求められています。セクハラを放置している企業は,採用の段階で候補者から敬遠される可能性もあります。
一方で,適切な対策を講じている企業は,「ここなら安心して働けそう」という信頼や好感度を獲得することができます。
法令遵守だけでは不十分な時代へ
男女雇用機会均等法やパワハラ防止法など法的整備は進んでいますが,単に法律に従うだけでは,信頼される企業とは言えない時代です。
重要なのは,法令順守に加え「企業の姿勢」として,
- 継続的な研修・教育
- 相談しやすい職場文化
- 経営陣がハラスメント防止の重要性を明確に打ち出し,全社的に取り組む体制を整える
企業がこのような動きを積極的に行うことが重要になるでしょう。
セクハラが発生した場合の企業の責任とは?

職場でセクハラが発生した場合,企業には重大な法的責任と社会的責任が問われます。
「加害者と被害者の個人間の問題」として片付けることはすでに許されない時代です。
法的な根拠-企業は職場環境を整える義務がある-
企業の責任は主に以下の法律に基づいて発生します。
男女雇用機会均等法(第11条)
企業には,職場におけるセクハラを防止し,適切に対応する義務があります。
具体的には,被害の申し出があった場合の対応体制の整備や,再発防止の措置を講じる必要があります。
労働契約法(第5条)
使用者(企業)は,労働者が安全かつ健康に働けるよう,職場環境を整える義務があります。
セクハラを放置することは,この義務に反する行為と見なされる可能性があります。
民法第715条「使用者責任」
社員が職務中に第三者(同僚など)に損害を与えた場合,その社員を雇っている企業(使用者)も損害賠償責任を負うことがあります。
男女雇用機会均等法や労働契約法,民法上の使用者責任など,企業には明確な義務が課されています。
「知らなかった」「対応が遅れた」では,企業としての信頼を大きく損なってしまいます。
セクハラ発生時の初動対応-企業がやるべきこと-
セクハラが疑われる事案が発生した際,企業には迅速かつ適切な初動対応が求められます。対応が遅れたり不適切であったりすると,被害が深刻化するだけでなく,企業そのものの責任も問われる可能性があります。
以下は、企業として取るべき初動対応の基本的な流れとポイントです。
①被害の申告を受けたら,まず「傾聴」と「保護」を優先する
- 被害者の話を否定せず,丁寧に傾聴する姿勢が重要です。
→「それは気のせいでは?」「証拠はあるのか?」といった発言はNGです。 - プライバシーを守りながら,安全な環境でヒアリングを行いましょう。
→面談場所や時間の配慮も含めて,被害者の心理的負担を減らしてください。
被害者が安心して話せる環境づくりが事実確認の第一歩となります。
② 事実関係の調査とヒアリング(加害者・関係者)
- 加害者とされる側にも公平にヒアリングを行うます。
- 必要に応じて,目撃者や第三者の証言も収集しましょう。
- 証拠(メール,チャット履歴,録音など)があれば適切に保全。
注意点は, 一方の言い分だけで判断せず,公平中立な立場で状況を把握します。
③ 調査チームまたは第三者委員会の設置
- 社内の利害関係を避けるため,外部の弁護士や専門家を含めた中立的な調査体制が望ましいです。
- 社内に「ハラスメント対策委員会」等があれば,速やかに対応を委ねましょう。
客観性と信頼性の高い対応が,後のトラブル防止につながります。
④ 被害者の就業環境の配慮・一時的な配置転換も検討
- 被害者が安心して働けるように,加害者との接触を避ける配慮を行うます。
- 必要に応じて,休職・配置転換・業務調整などを柔軟に対応しましょう。
被害者側に不利益とならないよう,本人の意向を尊重することが大切です。
⑤ 処分・是正措置の実施(事実確認後)
- 事実が確認された場合,就業規則や社内規定に従い懲戒処分や指導を行います。
- 行為の悪質度・継続性・反省の有無などを踏まえた適正な判断が求められます。
曖昧な処分は再発のリスクを高めます。毅然とした対応が必要です。
セクハラ対応はスピードと信頼性が命です。
「企業としてどう向き合うか」が問われる初動対応こそ,社員にとって「安心して働ける会社かどうか」を判断するポイントになります。
企業が取るべきセクハラ対策・再発防止策

セクハラは「発生してからの対応」だけでなく,「未然に防ぐ仕組みづくり」が何よりも重要です。
規則と方針を明確にする
- セクハラを禁止することを就業規則や社内ルールに明記しましょう。
- 社員に周知し,全員が理解している状態をつくることが大切です。
相談窓口を設ける
- 社内外に相談できる窓口をつくり,誰でも安心して利用できる体制にしましょう。
- 匿名でも相談できるようにしましょう。
教育・研修を行う
- 管理職・社員向けにハラスメント防止の研修を定期的に実施しましょう。
- 実例を交えて,何がセクハラにあたるかを具体的に伝えることも大切です。
トラブルがあった場合はすぐに対応する
- 相談があれば早急に調査・対応を行い,必要に応じて処分を検討します。
- 被害者の働く環境にも十分な配慮をすることが重要です。
職場の雰囲気づくり
- 日ごろから意見を言いやすい雰囲気をつくり,「違和感」に気づける職場を目指しましょう。
- 管理職が率先して,日頃の言動や行動を通じて,部下が安心して意見や悩みを話せる雰囲気をつくることも大切です。
まとめ-企業としての信頼を守るために,今すぐできること-

セクハラ問題は,一度でも発生すれば企業の信用を大きく損なうリスクがあります。
だからこそ,予防・初動対応・再発防止までを一貫して設計することが不可欠です。
社内ルールの見直しや研修の充実は,明日からでも始められる取り組みです。
経営層も管理職も,社員一人ひとりの安心・安全な職場づくりのために,本気で向き合う必要があります。
セクハラを防止し,信頼される組織を目指すために,企業は今できることから一歩ずつ取り組んでいきましょう。