【労働問題】社内でパワハラ告発!?企業側が取るべき対応について解説!
前回のコラムではパワーハラスメント(以下パワハラ)の基礎知識や被害に遭った際の対処について解説いたしました。
今回は社内でパワハラがあった際の企業側・責任者側がとるべき対応策や,未然に防ぐためにはどうするべきかについて解説してまいりたいと思います。
パワハラに対する企業・事業主の義務と責任
企業は従業員が職場でハラスメントを受けない・発生させないように環境を整える義務があります。
1 職場環境の整備義務
企業は、従業員が安心して働ける職場環境を提供する義務があります。これには、パワハラを未然に防止するための方針やルールを策定し、従業員に対して周知することが含まれます。
また、定期的に研修や教育を行い、従業員がパワハラについて正しく理解し、適切な行動を取ることが求められます。
2 労働施策総合推進法による義務
2020年の法改正により、企業にはパワハラ防止措置を講じる義務が課されています。この義務には、パワハラの防止策、相談窓口の設置、ハラスメントが発生した場合の迅速な対応が含まれます。
特に、企業はパワハラの報告や相談を受けた際に適切な調査を行い、必要な対応を取らなければなりません。
パワハラが発生した場合の企業の責任
もしパワハラが発生した場合,企業は次のような責任を負うことがあります。
- 労働契約法や民法に基づく損害賠償責任
従業員がパワハラにより精神的・身体的に被害を受けた場合,企業は被害者へ損害賠償を支払う責任を負うことがあります。 - 労働基準監督署による指導や制裁
企業がパワハラ防止措置を怠った場合には,労働基準監督署から是正勧告や指導を受けることがあり,場合によっては罰則を科されることもあります。
企業は単に法的な義務を果たすだけでなく、パワハラを許さない職場文化を醸成することが求められます。
またパワハラの防止と対策は、企業の社会的責任(CSR)にも直結しており、企業の信頼性や従業員のモチベーションにも大きな影響を与える要素になり得ます。
パワハラを防ぐためには?
パワハラが発生すると事実確認に時間を要する他,解決が難しいことなど企業にとってかなり厄介なことになるため,未然に防止することが重要といえます。
未然防止には,パワハラ防止の方針及びルールの周知,パワハラへの理解とその防止の重要性を従業員にわかりやすく教育する必要があります。
パワハラに関して社内全体で理解を深める
パワハラ防止の基本方針の明確化と従業員教育
企業がパワハラ対策を効果的に実施するためには、まずその方針を明確にし、全従業員に周知することが重要です。この方針の明確化は、パワハラの防止のみならず、職場環境の向上も促進します。具体的には、パワハラに対する企業のスタンスや取組内容を明文化し、社内の掲示板やネットを活用して広く周知します。
さらに、ミーティングや定期的な研修の場で改めて確認を行うことで、従業員に対する意識向上を図ります。
次に、従業員への啓発活動が重要です。企業は、パワハラに関する教育・研修を定期的に実施し、全ての従業員がその影響や重要性を理解することを目指しましょう。
具体的な研修内容としては,パワハラ事例を用いた研修やロールプレイングを通じて、実際の対応方法を学ばせることが有効といえます。この手法を用いれば従業員は自分自身が加害者・被害者の立場に立って考えることや、被害者としての対応方法を正しく理解させる効果が期待できます。
ハラスメント相談窓口の設置と運用
ハラスメント対策を行うには相談窓口の設置が不可欠です。
人事部や労働組合内など従業員がアクセスしやすい・相談しやすい環境に専任相談窓口を設置しましょう。
またオンラインでの相談も取り入れると,より気軽に従業員が相談しやすくなると思います。
相談窓口の担当者を選定する際には、コミュニケーション能力が高く、信頼性のある人物を選任します。
この者には、パワハラに関する法令や企業の方針について十分に教育を受けた上で,相談窓口の対応を任せましょす。また、相談内容は厳重に取り扱い、プライバシー保護への配慮も必須です。
パワハラ発生後の対応手順の確立
初期対応
もしパワハラが発生した場合,被害者からの相談を適切に受けることが大切です。
相談担当者は被害を真摯に受け止め,迅速かつ適切な事実確認を行います。
事実確認の内容としては,被害者以外でその場にいた者からの聞き取りや,メールなどの証拠収集です。
その証拠や聞き取りの内容から,パワハラの3要素である優越的な関係を背景にした言動、業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの、労働者の就業環境が害されることを満たすか否かを確認します。
また,調査は公正中立な立場で行いましょう。偏った評価を避けるために,弁護士や労務コンサルタントなどの専門家に意見を求めるとより客観的な判断ができます。
被害者対応
調査を行う事と並行して被害者への配慮措置を行うことも忘れてはいけません。被害者の心理的な負担を軽減するためのサポートや、安全な環境の確保が求められます。
心理的サポートとして専門のカウンセラーによるカウンセリングの実施,安全な職場を提供する方法として配置転換や人事異動を検討するのもよいでしょう。
但し配置転換や人事異動は被害者にとってストレスになる場合もあります。本人の意思を尊重した上で行いましょう。
加害者への処分
加害者に対しては、内容に応じた懲戒処分が必要です。懲戒処分は指導から解雇までの幅広い措置がありますが,公正な手続きに基づいた適切な懲戒処分を実施しましょう。
パワハラ防止法によって、企業は従業員に対する名誉と尊厳を守る義務を負っています。そのため、パワハラの事実が明らかになった場合には、迅速に被害者保護と企業の信用回復を目的とした厳正な対応が求められます。
再発防止策について
再発防止策として、加害者には再教育と研修を受けさせることが重要です。
特に、職場環境における人間関係の理解や適切なコミュニケーション方法の習得を目的とした研修が効果的です。
これにより、再度パワハラ問題が発生しないようにするだけでなく、企業全体の風土も改善されます。
また社内全体で定期的なハラスメント研修や啓発活動を行い従業員のパワハラ防止への意識を高めることも再発防止につながります。
企業が気をつけるべき新しいハラスメント
コロナ禍により働き方が変化したり,個人の価値観の多様化に伴い,現在では多くのハラスメント行為に呼称がつけられています。
今後企業が気をつけるべき新たなハラスメントの種類をいくつかご紹介したいと思います。
マタニティハラスメント(マタハラ)
妊娠・出産・育児休業の取得を理由に、不利益な扱いや嫌がらせを行うこと。例えば、妊娠や出産を理由に職場からの圧力をかける、育休後の復職を妨げるなどが含まれます。
具体的には,妊娠報告をした後に業務量を意図的に増やされる行為や,産休・育休の取得を申請すると「職場に迷惑だ」といわれ退職を勧奨するような言動が該当します。
アルコールハラスメント(アルハラ)
飲み会などの場で、他人に飲酒を強要する行為をいいます。また、飲酒が原因で他人に迷惑をかける行為や,飲み会の強制,お酒が弱い人に対し飲酒しないことを執拗に指摘するような行為も含まれます。
アルコールハラスメントは精神的苦痛を与える他,過度な飲酒の強要により急性アルコール中毒等の健康被害を引き起こすリスクもあるので非常に危険です。
就活ハラスメント
就職活動をしている学生や求職者に対して、企業や採用担当者、あるいは周囲の人々が行う不適切な言動や圧力のことを指します。
具体的には求職者に対し内定辞退をさせないように圧力をかける,他社の選考状況やプライベートについて過剰に聞き出すような行為が該当します。
リモートワークハラスメント
昨今ではテレワークやリモートワークの普及し自宅でも仕事ができるようになりました。出社しなくてもよいため嫌がらせを受ける機会が減少したように思えますが,実はリモートワーク中にもハラスメントが発生することがあります。例えば、業務時間外に頻繁に連絡を取る「タイムハラスメント」や、オンライン会議での発言を強要するなどの行為があります。
こういった行為を防ぐためにも,リモートワークを導入する際は,業務時間を明確化させ,労働時間外の連絡は最小限にとどめるよう企業側もルールを設けることが大切です。
ジェンダーハラスメント
ジェンダーハラスメントとは職場や社会で性別に関連する偏見や固定観念に基づいて行われる嫌がらせや差別的な行為を指します。これは、特定の性別に対して特定の役割や期待を強要すること、またはその性別に対する否定的な態度を取ることが含まれます。ジェンダーハラスメントは、あらゆる性別の人に対して行われる可能性があります。
育児休暇を取得する男性に対し「男が育休をとるな!」と発言したり,女性の昇進を阻むような行為が該当します。
まとめ
パワハラをはじめとするハラスメント対策は、企業の健全な経営と働きやすい職場環境を実現するために重要です。
そのためには社内全体でパワハラ防止への意識をもつほか,専門家や相談機関との連携が必要になります。
労働環境の変化がめまぐるしい昨今ですが、企業としてのハラスメント対策を怠らず、社会的責任を果たし、信頼される企業をめざしましょう。