
昼休み中の電話番は休憩?仕事時間?ー名ばかり休憩の違法リスクとはー

昼休み中でも電話が鳴ったら出るのが当たり前,お客様が来たら対応しないと怒られる・・・。
そんな休憩中の業務が、あなたの職場でも当たり前になっていませんか?
実はこのような状況は、法的には休憩とは言えず、未払い賃金が発生している可能性があります。
会社が休憩時間として扱っていても、労働者が自由に使えないのであれば、それは“名ばかり休憩”であり、労働基準法違反に該当する恐れがあるのです。
本記事では名ばかり休憩とは何か、どんなケースが違法とされるのか、そして企業や労働者がとるべき対応策についてわかりやすく解説します。自分の職場に当てはまるかどうか、ぜひチェックしてみてください。
名ばかり休憩とは?

労働基準法第34条では、一定時間以上働く労働者に対して、休憩を与えることが義務付けられています。
特に重要なのが,休憩時間は労働者に自由に利用させなければならないという原則です。
しかし実際には、会社が「これは休憩時間です」と言っていても、電話番や来客対応を命じているケースが少なくありません。
このように、名目上は休憩でも、実態として業務に拘束されている場合、それは「名ばかり休憩」と呼ばれ、法律上は休憩とは認められない可能性があります。
名ばかり休憩の具体例

以下のようなケースは名ばかり休憩として違法と判断される可能性があります。
例 | 労働時間とみなされる理由 |
---|---|
昼休み中に電話番をさせられる | 拘束されていて自由利用ではない |
店番を兼ねる休憩 | レジや受け付けに居ながら休憩し,来客があれば対応するという行為は業務の一部であり休憩とは言えない |
上司が同席し、指導・雑談をする「ランチミーティング」 | 指導や業務の指示が行われるため実質的に業務時間として機能している |
自席で休憩しろと言われるが来客・上司の声で全然休めない | 物理的・心理的に「休憩」になっていない |
このような場合,形式上は休憩でも労働者が自由に行動できないため,労働時間としてみなされる可能性が高いのです。
名ばかり休憩が違法と認定されるとどうなる?

名ばかり休憩が違法と認定された場合、その“休憩時間”は実際には「労働時間」として扱われることになります。
これはつまり、その時間分の賃金を支払っていなければ、会社は“未払い賃金”の責任を問われるということです。
たとえば、1日1時間の「名ばかり休憩」があったとして、それが年間250日続いた場合、1年で250時間もの未払いが発生します。
これに時間外割増(25%)が加算されると、正社員1人あたり数十万円〜100万円超の支払いが必要になることも珍しくありません。
さらに、未払い賃金は過去2年(条件によっては3年)分さかのぼって請求可能です。複数人から同様の請求があれば、企業にとっては大きな金銭的ダメージとなるでしょう。
また、労働基準監督署が調査に入り、名ばかり休憩の実態が確認されると、以下のような行政指導が行われる可能性があります
- 是正勧告や是正指導票の交付
- 再発防止のための報告義務
- 悪質と判断された場合は、企業名が公表される可能性も
さらに、従業員側が団体交渉やSNSで問題を告発すれば、ブラック企業というイメージが拡散し、採用難・信頼失墜といった二次的な損害に発展することもあります。
企業にとって名ばかり休憩は、見逃すべきではない法的リスクであると同時に、組織運営上の時限爆弾とも言える問題です。
たとえ昔からの慣習であったとしても、現在の労働環境・労務管理の基準から見直す必要があります。
企業や労働者がとるべき対策

「名ばかり休憩」を防ぐために企業がすべき行動
- 休憩中の電話・来客対応を禁止する運用ルールの整備
- 休憩時間中の業務指示・チャット・雑談による介入を控える
- 休憩場所の環境を見直し,業務からの心理的距離を確保する
- 就業規則等に休憩の自由利用について明記する
- 労働時間・休憩時間を別々に正確に記録・管理する
- 就業場所が店舗の場合,休憩中の人員補填(交代制・人員配置)を検討する
- 管理職に対し,休憩中に部下へ業務指示をしない等の教育を行う
企業にとって重要なことは、法律上のルールを“形だけ”守るのではなく、実態として休憩を成立させる運用を実現することです。
特に中小企業や接客業・販売業などでは、「昼休み中も誰かが対応しないと困る」という声が多くありますが、それは休憩制度が機能していない職場設計そのものです。
少しの手間を惜しんだ結果、未払い残業代の請求や労基署の調査など大きな損害を招くことは、経営上のリスクとして極めて重大です。
「忙しいから仕方ない」ではなく、「休憩を完全に与えるにはどう設計すべきか」を主導的に考える姿勢が、現代の労務管理には求められています。
「名ばかり休憩」から身を守るために労働者がすべき行動
- 休憩中の業務指示や対応履歴を記録しておく
- タイムカードや勤怠記録と実際の休憩時間のズレを記録しておく
- 職場内で「自由に使えない休憩が続いていることを上司へ相談する
- 上司へ相談して改善しない場合は,人事や労務窓口へ相談
- 会社全体が名ばかり休憩を黙認している場合は,労働基準監督署や弁護士へ相談を検討
- 他の従業員と情報共有し,同様の実態があるかについて話す
労働者にとって,休憩時間は当然の権利です。
それを侵害されているのに、「休憩を取らせてもらっているだけありがたい」と感じてしまっている方も少なくありません。
しかし、休憩が“自由に利用できる時間”でなければ、それは法律上の休憩とは言えません。
まずは、何が問題で、どのように証拠を残すべきかを知ることが第一歩です。
特にスマホのメモや日記、LINEの業務指示などは、後の証拠として非常に有効です。
状況が改善されない場合は、専門家への相談も選択肢に入れて、精神的・経済的な損失を防ぎましょう。
まとめ

名ばかり休憩は、単に“休憩の質が悪い”という話では済みません。
労働基準法上の休憩とは、労働から完全に解放され、自由に過ごすことができる時間を意味します。
それが守られていない状態が継続すると、未払い賃金の発生や法令違反による行政指導、そして企業の信用失墜に直結する重大な労務リスクとなります。
中小企業や現場主導の運用が多い職場では、「人が足りない」「誰かが見ていないと困る」といった事情から、結果的に休憩時間中の“拘束”が黙認されがちです。
しかし、その積み重ねが訴訟や労基署の調査という形で表面化すれば、会社の負担は計り知れません。
さらに、従業員の不満が高まれば、離職や口コミでの悪評拡散など、採用面でも大きな打撃となる恐れがあります。
企業側にとっては、休憩のあり方を見直すことが、法令遵守だけでなく職場環境改善や従業員満足度の向上にもつながる重要なステップです。
一方、労働者側も仕方ないと我慢するのではなく、まずは正しい知識を持ち、声を上げることが自分自身を守る第一歩となります。