
【時事ネタ】2025年6月から全企業を対象に熱中症対策が義務化されます

近年、猛暑の影響で職場での熱中症が深刻化しています。
屋外作業や空調のない工場・倉庫では危険度が高く、2023年には熱中症による労働災害が1,195件と過去最多を記録しました。
死亡者も30人を超え、労働災害全体の約4%を占める深刻な状況です。
気候変動により暑さは年々厳しさを増しており、これまで以上に職場での対策が求められています。
このような状況を踏まえ,2025年6月1日から企業の熱中症対策が義務化されることとなりました。
改正省令のポイント

改正労働安全衛生規則では、事業者に対し、熱中症による健康障害を防止するための体制整備と手順の策定・周知が義務付けられます。
主なポイントは以下の通りです。
報告体制の整備と周知
事業者は、熱中症を生ずるおそれのある作業を行う際、作業者が自覚症状を有する場合や他の作業者に熱中症の疑いがあることを発見した場合に、速やかに報告できる体制を整備し、作業者に周知する必要があります。
この体制には、報告先の連絡先や連絡方法の明示が含まれます。
対応手順の策定の周知
事業者は、熱中症の症状が発生した場合に備え、作業場ごとに以下の対応手順を策定し、作業者に周知する必要があります。
- 作業からの離脱
- 身体の冷却(例:水をかける、ミストファンの使用、アイススラリーやスポーツドリンクの摂取など)
- 医療機関への搬送や産業医等の診断
これらの手順は、事業場の実態に応じて合理的に実施可能な内容とする必要があります。
すべての“暑さにさらされる”職場が対象に

この改正で対象となるのは、以下の労働環境で働く人たちです
- WBGT(湿球黒球温度)が28以上または気温が31度以上の環境下
- 連続1時間以上または1日4時間を超えての作業が見込まれる
- エアコンの効かない倉庫、屋根のない作業場
つまり、単なる炎天下の屋外だけでなく、蒸し暑い倉庫や空調が弱い製造現場なども含まれ、広範な業種・業態に影響があります。
また、対象となる“作業者”も自社の社員だけでなく、派遣社員や協力業者、下請け業者など、同一作業場所で働く全員が含まれます。
特に建設現場など、複数企業が混在する職場では、元請・下請関係なく、全ての事業者が同様の対応を求められる点に注意が必要です。
WBGTとは?
熱中症を予防するための暑さ指数のことを指します。
気温・湿度・輻射熱の2つの要素を総合的に評価し熱中症リスクを判断するために利用されます。
WBGTが28以上になると,熱中症の危険性が高まるため,激しい運動や体温が上昇しやすい運動は避ける必要があります。
また外出時は炎天下を避け,室内の気温上昇に注意しなければなりません。
さらに31以上になれば、高齢者においては安静状態にあったとしても熱中症リスクが高まります。外出はなるべく避け涼しい室内で過ごす必要があります。
小規模事業者であっても“やらなかった”は通用しません

「うちは人数少ないし関係ない」「暑いのは毎年のこと」という声もあるかもしれません。
しかし、熱中症は命に関わる緊急事態です。
厚生労働省は明確に、作業者が1人でもいれば、体制の整備義務があるとしています。事故が起きてから「知らなかった」「準備していなかった」では済まされない時代です。
もし,対策を怠った場合は企業側に6ヶ月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科されます。
罰則の対象となるのは代表者や店舗責任者が想定されています。
また熱中症対策を行うに当たって,新たな設備や冷却アイテムの購入などのコストや手間がかかり,企業側に負担がかかります。
しかし対策を怠ったことで万が一熱中症による労働災害が起こってしまうと,
労災認定による保険料の増加や,従業員の離職,企業の信用低下など大きな損失につながることも予想されます。
6月の施行に向けて企業がとるべき対策は?

職場における熱中症死亡災害のほとんどが,熱中症の初期症状の放置・対応の遅れと言われています。
そのため就業現場において,重篤化あるいは死亡に至らせないための適切な対策の実施が必要になります。
作業現場で熱中症が発生した場合に備えて
- 報告を受ける管理者を定め,連絡先や連絡手段を周知する
- 作業前のミーティングで従業員の体調確認を実施
- 熱中症を発症した際の行動手順を具体的示す。
例:熱中症疑いのある者を発見
→作業離脱・冷却・付添い
→意識の有無や異常の確認
→必要に応じて緊急隊の要請や医療機関への搬送 - 熱中症発症時に使用する冷却機材や備品(氷,冷風機,ドリンク)の設置
- 行動手順の各工程に責任者を設置し,スムーズに対応できるようにする
- 朝礼での声かけ,企業の熱中症対策義務化の掲示を行う
- 口頭ではなく書面で知識を提供し,理解度チェックをする
熱中症予防のための対策

作業環境の管理
高温多湿の作業場においては直射日光等を避ける簡易的な屋根を設けたり,休憩場所は冷房を備えた場所または日陰等の涼しい休憩場所を設置する。
作業管理
WBGTの指数が高く熱中症の発症の恐れがある場合は,作業時間を短縮させるほか円分や水分の摂取を積極的に行うよう指導しましょう。
また,作業の際の服装に関しては,熱を吸収しやすい衣服は避け通気性のよい服装を着用させましょう。
健康管理
健康診断結果に基づいて,熱中症発症リスクの高い人へは細心の注意を払うようにする他
睡眠不足・体調不良・飲酒など日常の健康管理について指導をおこなうとともに健康相談が実施できるよう関係機関と連携を図るようにしましょう。
まとめ

気象庁によれば,今夏(2025年6月~8月)も温かい空気に覆われ,気温は全国的に高くなる見込みとのことです。
5月に入り夏日・真夏日を記録した,熱中症で搬送された等のニュースもしばしば報道されています。
そして今回の法改正により、企業には明確な義務が課されるようになります。
しかし、本当に熱中症から命を守れるかどうかは、最終的には現場の意識にかかっています。
・体調悪そうな人がいたら、すぐ声をかけ休ませる。
・ちょっとでも体調に異変を感じたら、無理をせずに休む。
このようにお互いを気遣うことができる真に安全な職場といえるのではないでしょうか。
2025年の法改正をただのルール改変に終わらせず、現場全体の体質改善につなげていくことが,これからの“暑い日本”を生き抜く企業の生存戦略と言えるでしょう。