
【弁護士解説】カスハラとクレームの違いとは?正当なクレームとの区別について解説

前回のコラムでは令和7年4月1日より東京都カスタマーハラスメント防止条例が施行されることや,その概要について解説しました。

今回はこちらに関連して,カスタマーハラスメント(通称:カスハラ)と正当なクレームとの違いや,カスハラに該当する具体的な発言や行動について解説してまいりたいと思います。
カスハラの特徴

カスタマーハラスメント(以下カスハラと呼びます)は顧客が従業員に対して,行き過ぎた言動や不当な要求,嫌がらせのことを指します。
具体的には,顧客が従業員へ暴言を吐く・威圧的な態度をとる・必要以上のサービスをもとめる行動が該当します。
カスハラは,従業員個人に対する攻撃性が強く,それにより精神的・身体的苦痛を伴うといった特徴があります。
カスハラが社会問題化したのはなぜ?
2023年に厚生労働省は,企業やそこに勤務する従業員を対象に職場のハラスメントに関する実態調査を行いました。
その調査のうち企業が受けた過去3年間ハラスメント相談有無の項目ではは,パワハラ・セクハラに次いでカスハラ(顧客からの著しい迷惑行為)の割合が高くなっています・
また,過去3年間の相談件数の推移では,パワハラ及びセクハラは「相談件数が増加している」の割合が「相談件数が減少している」の割合よりも低くなっていますが,カスハラはその反対で「増加している」が「減少している」の割合よりも高くなっています。
さらに,カスハラの事例件数も増加していることが調査によってわかっています。
このことからカスハラの相談件数が増加しているとみてよいでしょう。
カスハラが増加している理由としていくつかの社会的・文化的要因が関係しているといわれています。
- 顧客第一主義の誤解
「お客様は神様」という考え方から企業側が顧客満足を重視するあまり、過剰な要求にも対応してきた歴史があります。これが一部の人に“どんな要求でも通る”という誤った認識を持たせてしまっています。 - SNSによるクレームや悪評の拡散
SNSが普及したことにより,企業の対応が拡散・炎上することが増えました。また口コミサイトも増加に伴い,その店舗に対し心ないコメントを投稿する人もいます。
そのため企業側が悪評を避けるために,顧客に過剰なサービスをするようになりました。その結果一部の顧客がこれを利用し,無理な要求を押し通そうとするようになりました。 - 労働環境の変化と接客業の人材不足
人手不足が深刻化しており,経験の浅いスタッフのみで経営している事業所が増加しています。そのようなスタッフが顧客からの対応に困ってしまうことで,さらに顧客の不満を増大させ,結果として過大な要求をしてくる場合があります。
特に接客業は労働環境が過酷なため、毅然とした対応ができず,結果として顧客の良いなりになってしまう場合もあります。
正当なクレームとカスハラの違い

顧客からのクレームが全てカスハラに該当するわけではありません。
正当なクレームとは,合理的かつ適切な補償や改善を求める内容を指摘することです。
具体的には以下のようなものが該当します。
- 契約や法令に基づくもの
購入した商品やサービスが契約内容と異なっている場合
消費者保護法や民法など法律に違反している場合 - 客観的根拠があるもの
レシートや不具合の写真など事実に基づいた証拠があること
主観的な不満ではなく,明確な問題点を指摘していること - 適切な範囲での要求であること
補償や返金の要求が妥当な範囲内であること
過度な要求(法外な金銭を請求する等)ではないこと - 誠実な意図で行われていること
不正な目的(詐欺・脅迫等)ではなく公正な対応であること
カスハラに該当しない正当なクレームの例

ネットで商品を注文したが,電源が入らないので交換してほしい。
動作不良がわかる動画も添付します。
→客観的根拠に基づいた証拠をもとに商品の不具合を指摘しているため正当なクレームといえます。



月5,000円のプランを契約しているのに,請求書には10,000円と記載されている。誤請求と思われるので返金してほしい。
→契約したサービスが内容と異なっていることを指摘しているので正当なクレームであり,企業は顧客に対し誤請求の原因や,返金について説明する必要があります。



注文した商品にごみが入っていたので再度つくりなおしてほしい。
→適切な補償を求める要求であり,本内容には妥当性があり正当なクレームといえます。
どんな言動がカスハラになるのか?


上記で解説した正当なクレームを,カスハラに当てはめるとどうなるでしょうか?
カスハラに該当する発言例
購入品が不良品だった場合



こんな不良品を送りつけてくるなんて最低な会社だ!
明日までにちゃんとした商品を送ってこないと,ネットでこの内容を拡散してやる!
→脅迫により無理な要求を通そうとする行為はカスハラに該当します。
契約内容と実際のサービスが違った場合



料金を間違えるとは何事だ。
こんなミスをしたのだから今月の料金はタダにしろ!それが誠意ってもんだろ?
→本内容は過剰な要求・不適切な命令となり,カスハラに該当します。
契約した商品を既に利用している場合は,誤請求と正規料金の差額を返金してもらうよう伝えることがよいでしょう。
提供した商品に異物が混入していた場合



客にゴミを食べさせるなんて,衛生管理がなっていない。
俺が納得するまで謝罪をしろ。それができないなら保健所へ通報する。
→暴言により店舗の信用を傷つけるほか必要以上の謝罪を求める行為はカスハラに該当します。
店舗側のミスではありますが,顧客が威圧したり過剰な要求をすることは絶対にやめましょう。
その他カスハラに該当する行為
- 企業の提供する商品と関係ない要求
- 従業員に対する性的・差別的な言動
- 居座り・不退去等拘束的な行動
- 土下座の強要
- 暴行等身体的な攻撃
- 侮辱・名誉毀損・中傷等精神的な攻撃
- 特別扱いの要求
- SNSでの暴露や従業員をネット上で名指しで攻撃する行為
以上のような行為を受けた場合には,責任者や社内相談窓口へすぐに相談しましょう。
まとめ


正当なクレームは事実に基づき,合理的な解決策を求めるものですが,カスハラは顧客が威圧的な態度で感情的に攻撃をすることで,従業員に精神的・肉体的に苦痛を与えるものです。
もし,顧客からカスハラを受けた場合には,毅然とした対応で臨みましょう。
また企業も従業員を守るために,カスハラを受けた際の対応等従業員教育を日頃から行ったり,相談体制を整える等の対策が重要となります。
また,カスハラは対応を間違えるとさらに大きなトラブルになることが予想されます。
あまりに悪質であったり対応が困難となった場合には警察や弁護士に相談することも検討しましょう。
令和7年4月1日より,東京都ではカスタマーハラスメント防止条例が施行されます。
これを機に,カスハラの知識を深める他,現在の社内体制の見直し等を図るとよいでしょう。