相続権の剥奪について
相続人となる資格が民法で認められている者であっても,必ず相続人になれるというわけではありません。
民法は,相続欠格と相続廃除という制度を設けて,相続資格の剥奪を認めています。
相続欠格とは
相続秩序を侵害する非行をした相続人の相続権を,法律上当然に剥奪する制度です。
民法では次の5つの欠格事由を定めています。
①故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ,又は至らせようとしたために,刑に処せられた者
相続人が,被相続人や兄弟に対する殺人や殺人未遂の罪で,刑に処せられたような場合です。
②被相続人の殺害されたことを知って,これを告発せず,又は告訴しなかった者。ただし,その者に是非の弁別がないとき,又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは,この限りでない。
ただし,すでに犯罪が発覚し,捜査が開始された後は,告訴・告発しなかった場合でも,この欠格事由にあたらないとされています。
③詐欺又は強迫によって,被相続人が相続に関する遺言をし,撤回し,取り消し,又は変更することを妨げた者
被相続人が遺言や,遺言の取り消し・変更をしようとしていることを知り,それを詐欺・恐喝で妨害すると,相続欠格事由になります。
④詐欺又は強迫によって,被相続人に相続に関する遺言をさせ,撤回させ,取り消させ,又は変更させた者
被相続人に対して,直接に詐欺や強迫によってを加え,被相続人に遺言に関する行為をさせたときは相続欠格事由になります。③は遺言行為を妨害した場合の規定であるのに対し,④は遺言行為を強要した場合の規定となります。
⑤相続に関する被相続人の遺言書を偽造し,変造し,破棄し,又は隠匿した者
偽造とは,遺言書を無断で作成すること,変造とは,被相続人が作成した遺言書を加除,変更することです。ただし,相続人が被相続人の遺言書を破棄又は隠匿した行為が相続に関して不当な利益を目的とするものでなかったときは,相続欠格者に当たらないとされています。
相続欠格の効果
当然に相続権を失います。被相続人がその者に遺贈をしていても受遺者になれません。また,遺留分を受け取ることも出来ません。
ただし,相続欠格者の子は代襲相続人になることが出来ます。欠格は非行者への制裁に留まるからです。
相続欠格の手続き
上記5つに該当する事実があれば,ただちに相続権を失います(手続きは必要ありません)。そのため,遺産分割協議には参加することは出来ません。
ただし,戸籍に記載されることはなく,役所が証明書を発行することはありません。
相続人間で,特定の相続人の行為が欠格事由に該当するかが争いになった場合には,相続権又は相続分不存在確認訴訟において,欠格事由の有無が判断されます。
推定相続人の廃除
1 廃除とは
遺留分を有する推定相続人(配偶者,子,直系尊属)に非行や被相続人に対する虐待・侮辱がある場合に,被相続人の意思に基づいてその相続人の相続資格を剥奪する制度である。
①推定相続人による被相続人への虐待や重大な侮辱がある場合
「虐待」とは,被相続人に対する暴力や耐えがたい精神的な苦痛を与えることです。
「重大な侮辱」とは,被相続人の名誉や感情を害することです。
②推定相続人にその他の著しい非行がある場合
「著しい非行」とは,「虐待」や「重大な侮辱」には該当しないものの,それと同等のものです。
例えば,犯罪,服役,被相続人が経営する会社の乗っ取り,被相続人の預金の無断使用,不倫,暴力などです。
2 廃除の方法
① 生前廃除
被相続人自らが生存中に家庭裁判所に審判を申し立てます。
② 遺言廃除
被相続人が遺言で廃除の意思を表示します。例えば,「遺言者の夫○○(昭和〇年〇月〇日生)は,平成〇〇年〇月頃から〇〇と不貞行為を継続し,遺言者に対し,蹴るなどの暴力を振るって全治4週間の傷害を負わるなど著しい非行があったため,遺言者は夫〇〇を廃除する」などと記載します。被相続人が亡くなった後,遺言執行者が家庭裁判所に廃除の申立を行います。そのため,遺言で遺言執行者を指定しておくべきとされています。
3 家庭裁判所での審理
推定相続人にも,反論の機会が与えられています。推定相続人は,裁判官の面前で,廃除事由には該当しないことなどを口頭で陳述したり,反論書面及び資料を提出することが出来ます。
4 効果
被廃除者の遺留分権を含む相続権が剥奪されます。廃除は,あくまで,虐待等を行った被廃除者に対する制裁のため,その子は代襲相続することが出来ます。
廃除が認められた場合には,戸籍にもその旨の記載がなされます。
なお,被相続人は家庭裁判所への請求または遺言によって,いつでも,廃除の取消をすることが出来ます。