【相続】療養看護型寄与分について弁護士が解説します【Q&A付】
療養看護型の寄与分とは?
相続人が,病気療養中の被相続人の療養看護に従事した場合に認められる寄与分をいいます。 本来は,被相続人自らの費用を支出して看護人を雇わなければならなかったはずのところ,相続人が療養看護したために,被相続人がその支出を免れたことで,相続財産が維持又は増加した場合に認められます。
寄与分についてはこちらの記事で解説しています。
療養看護型の寄与分が認められる要件
療養看護型の寄与分が認められるためには,以下の5つを満たす必要があります。
①被相続人との身分関係に基づいて通常期待される程度を越える特別の寄与があったこと
その前提として,介護保険における要介護度2(※)以上の状態にあるなど被相続人が療養看護を必要とする病状にあり,近親者による療養看護を必要としていたことが必要です。従って,病院に入院しているような場合には,基本的には寄与分は認められません。
配偶者に対する療養看護は,一般的には夫婦の協力扶助義務に含まれるため,認められるケースは限られます。認められるケースとしては,例えば,高齢の配偶者が,長期にわたり,入退院を繰り返す被相続人を自宅において,入浴,排泄などの介助を行っていたような場合が挙げられます。
※要介護2の状態は,歩行や起き上がりなど起居移動がひとりでできないことが多く,食事,着替えはなんとか出来るものの,排泄は一部手助けが必要な状態です。要介護1状態より日常生活能力の低下があり,理解力の低下も見られる状態です。
②無償又はそれに近い状態で事業に従事していたこと
被相続人から療養看護の対価として金品を受け取っているような場合には寄与分は認められません。その一方,通常の介護報酬と比較して,著しく低額な報酬しか受け取っていないような場合には,この要件を満たします。
③継続的に療養看護を行っていたこと
期間について明確な定めはありませんが,実務的には1年以上を必要としている場合が多いです。
④専従性
療養看護が片手間なものではなく,かなりの負担を要することが必要です。
ただし,専業や専念ということまでは必要ありません。
⑤寄与行為の結果として被相続人の財産を維持又は増加させていること
寄与分の計算方法
療養看護行為の報酬相当額(日当)に看護日数を乗じ,それに裁量割合を乗じて計算するのが一般的です。
寄与分の計算式
報酬相当額(日当)×日数×裁量割合
以下,それぞれの項目について解説していきます。
①療養看護行為の報酬相当額について
介護保険における介護報酬基準が用いられることが多いです。要介護者の受けた介護サービスの内容,居住地(級数)等を考慮して介護報酬を算定したものを参考に療養看護の寄与分を算定しています。
なお,要介護認定されていない場合には,被相続人の当時の心身の状況から要介護度を推認することによって,介護保険における介護報酬基準を利用して算定します。
②療養看護の日数
デイサービスやショートステイを利用した場合,その利用期間については介護の実態がないため,1日分の介護を認定することは出来ないとされています。
③裁量割合
介護保険における介護報酬基準は,基本的に看護等の資格者への報酬を前提としているため,親族の報酬額をその基準と同額とするのはふさわしくないと考えられています。通常は,裁量割合0.5~0.8程度が乗じられて修正が加えられており,0.7あたりが平均的な数値と考えらています。
参考判例
平成19年2月8日大阪家庭裁判所審判
認知症の症状が顕著になった被相続人に3度の食事を摂らせ,排便の対応など献身的な行っていた相続人に対し,1日8,000円程度,3年間の寄与分合計876万円を認めました。
療養看護型寄与分に関するQ&A
- 健康な被相続人に対して,家事の援助をした場合,寄与分は認められますか?
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療養看護型の寄与分は,被相続人が療養看護を必要とする病状にあった場合に,その看護に努めたことにより認められるもので,健常なる被相続人に家事援助をしたとしても,認められません。
ただし,家事援助に関しては,例えば,高齢の被相続人が,自己の配偶者を自宅で介護していることから日常の家事に支障が生じており,そのため遠方に居住している相続人が長期にわたって,毎日のように被相続人宅に出向き,広範囲に及んで家事に従事していたような場合には,寄与分が認められる可能性があります。 - 入院中の被相続人に付添看護をした場合,療養看護型寄与分は認められますか?
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平成9年9月末にすべての医療機関において身内の付添看護が廃止され病院関係者によって看護がまかなわれることになりました。そこで,親族が献身的に病院に足を運び世話をしても,原則として寄与分は認められません。しかし,医師が親族の付添看護の必要性を特別に認めた場合は,例外的に寄与分を認めることが出来ると考えられています。
- 被相続人が病院に通院するのを手伝っていた場合,療養看護型寄与分は認められますか?
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認められません。親族として通常期待される範囲内にあり,特別の寄与とは考えられないからです。
- 被相続人が認知症で,その介護に努めた場合,療養看護型寄与分は認められますか?
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被相続人に日常的判断力,理解力がなく,徘徊行為の見守りを要する等の場合,同人の介護は親族が通常期待される程度を越えた特別の貢献と判断され,療養看護型寄与分が認められます。
- 病気その他の理由により,本来ならば被相続人が扶養すべき者への療養看護を相続人が代わって行ったり,被相続人が負担すべき者への療養看護費用を相続人が代わりに支払っていたような場合,療養看護型寄与分は認められますか?
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被相続人(夫)Aが扶養可能状態にあったにも関わらず(仮に,被相続人に生活余力がなかった場合には,同人は療養可能な状態にあったとはいえません),病気等で,被相続人の配偶者(妻)Bの療養看護を行えなかった場合に,被相続人の兄弟である相続人がBの療養看護を行った場合には,療養看護型寄与分として認められることがあります。ただし,Bが自ら療養看護費用をまかなえるほどの資力を有していた場合には,同人は要扶養状態にあるとは言えないため,療養看護型寄与分は認められません。
- 療養看護の状況を明らかにするため,どういった証拠が必要ですか?
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診断書,カルテ,要介護認定結果通知書,介護サービス利用票,介護日誌,連絡ノート,当時の写真,日記,手帳,家計簿等が有用な参考資料となることがあります。
- 療養看護を行っている相続人が,被相続人所有の建物に無償で居住しているような場合,寄与分に影響しますか?
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被相続人から,同居の要請があった場合や,療養看護のため同居形態をとらざるを得なくなったような場合には,相続人は自己の生活環境をある程度犠牲にして,被相続人と同居していると考えられるため,寄与分は否定されません。
その一方,相続人に持ち家がなく,家賃の負担さえ厳しいほどの経済的状況にある時期に,相続人の申出によって同居が開始された場合には,算定された寄与分から居住利益分が差し引かれます。 - 相続人が自ら療養看護を行うのではなく,第三者に被相続人の療養看護を依頼し,その費用を負担した場合,療養看護型寄与分を請求することは認められますか?
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療養看護型寄与分はあくまで,療養看護を行った場合に認められるため,金銭出資型寄与分として請求することになります。