急増する『リベンジ退職』とは?原因や企業への影響と防止策について解説

監修者:弁護士 渡辺秀行 法律事務所リベロ(東京都足立区)所長弁護士

監修者:弁護士 渡辺秀行

 法律事務所リベロ(東京都足立区)
 所長弁護士

『リベンジ退職』という言葉を聞いたことはありますか?
これは単なる転職やキャリアアップが目的での退職とは異なり,退職する職場への不満や怒りを背景に意図的にトラブルを起こして退職する行為を指します。

  • 繁忙期を狙った突然の退職
  • 退職の際,退職者自身が作成した重要な書類データを全削除する行為
  • SNSに会社が特定できる内容で誹謗中傷または告発を行う行為

以上のような会社にダメージを与えて退職する行為はリベンジ退職に該当します。
リベンジ退職をされてしまうと業務停滞や,イメージの悪化,人材流出など,企業に深刻な影響を及ぼします。
本記事では,リベンジ退職の定義や背景・事例,企業と退職者が直面する法的リスク,防止策について解説したいと思います。

目次

リベンジ退職とは?―定義と特徴―

『リベンジ退職』とは,職場への不満や怒りを背景に,あえて会社に損害を与えるような形で退職する行為を指します。
リベンジ退職を行う従業員の不満は入社前と後での業務に対するギャップや,上司や同僚との人間関係,ハラスメント,人事評価に対するものなど様々です。
また一般的な退職や転職は,キャリアアップや家庭の事情など前向きな理由が多いのに対し,リベンジ退職は仕返しや意思表示の色合いが濃いのが特徴です。

通常の退職とリベンジ退職の違い

通常の退職は,業務を後任に引き継ぎ円満退社をめざすものと思われます。
しかし,リベンジ退職の場合,引き継ぎを拒否したり,あえて繁忙期に突然退職の意思表示をするなど,企業に痛手を与えるような行動が目立ちます。
つまり,計画性と報復性を伴う点が大きな違いと言えます。

リベンジ退職の具体的な行動例

リベンジ退職にみられる典型的な行動としては以下のようなものがあります。

  • 繁忙期や大きなプロジェクトが開始する直前に突然退職してしまう
  • 業務の引き継ぎを意図的に行わない
  • 退職者が過去に作成した業務に関するファイルを削除する
  • SNSや口コミに企業イメージを傷つけるような内容を発信する

新しい世代的現象としての広がり

リベンジ退職は特に若い世代に広がりを見せています。
職場の理不尽に耐えるよりも,自分の心を守るために我慢しないという意思表示であったり
突然辞める行為については「退職は失敗ではない!合わなければ辞めよう!」という考えがベースとなっています。
またSNSの普及により,不満や自己体験を発信すれば共感が得られる環境ができました。
「仕事の不満を持っているのは自分だけではなかった。」と感じることで,退職する決断が後押しされることもあります。

若者世代は“不当な扱いには従わない”“ダメだったら次に行けばいい”という価値観で行動していますが,企業側から見れば報復的に写ってしまう,というのがリベンジ退職の本質ではないかと考えられます。

リベンジ退職が企業に与える影響

リベンジ退職は単なる“辞める”という行動にとどまらず,企業に深刻な影響を与えるケースがあります。
ここでは企業が被るリスクを整理します。

他の従業員への影響

繁忙期を狙ったタイミングに従業員が突然辞めてしまうと,業務が滞り残った社員の負担が増大します。
また退職者が引き継ぎを拒否すれば,必要な情報が組織に共有されず,結果として業務が停滞し取引先との関係悪化や顧客対応の遅れに繋がってしまいます。
さらに,リベンジ退職は直接的な損害だけではなく,他の従業員のモチベーション低下を招きます。
「いつ辞めても誰かが代わり業務を行ってくれる」と考える人が増えれば,組織全体の従業員定着率に影響し,悪循環を招く恐れがあります。

業務の妨害

退職する際に,故意にデータ削除するといった行為もよく耳にします。
実際に退職をする際にわざと職場のフォルダを消去し,企業は復旧に莫大な費用と時間を費やしたといった事件がありました。この事件は,会社の利益を侵害したとして,民事上の損害賠償請求が認められたほか,フォルダの削除により業務妨害を図った疑いで企業から刑事告訴されました。
このような行為は,不法行為や電子計算機損壊等業務妨害罪等に該当する可能性が高く,退職後であっても,法的責任を免れることはできません。
たとえ,故意でなくとも業務データを消去/持ち出した場合には,情報漏洩やコンプライアンス違反として企業に深刻な打撃を与えることになります。
近年はリモートワークの普及により,社員が自宅から重要なデータにアクセス出来る環境が整っており,企業にとってはセキュリティ面のリスクも拡大しています。

企業イメージの低下

退職理由をSNSや転職サイト・口コミで拡散するケースも目立っています。
従業員の生の声は大きな影響力を持つため,今後の採用活動や企業イメージに直結します。
事実の一部にすぎなくても「ブラック企業」と言われてしまえば,優秀な人材確保が困難になったり,企業イメージが低下してしまう可能性があります。

リベンジ退職に潜む法的リスクとは

リベンジ退職はその行為が法的トラブルに発展するリスクを抱えています。
怒りや不満に任せた行動は退職後も長く尾を引く可能性があるため注意が必要です。

無断退職と損害賠償請求の可能性

労働者には退職の自由がありますが,民法627条では原則として退職の2週間前までに申し出が必要とされています。
繁忙期に突然辞める,引継ぎの拒否を行った場合,企業は業務に重大な支障をきたすとして損害賠償請求をする可能性があります。
特に専門性の高い職種や管理職は責任が大きいため,さらにリスクが高まるでしょう。

不法行為の可能性

退職時に会社のデータを故意に削除したり,マニュアルや顧客に関するデータを持ち出す行為は,不正アクセス禁止法や業務妨害罪などに該当する恐れがあります。

またインターネット上に企業に対する批判・誹謗中傷を書き込めば名誉毀損罪に問われる可能性もあります。事実無根の情報を流布した場合はさらに法的責任が重くなります。

  • データの削除:電子計算機器損壊等業務妨害罪(刑法234条の2)
  • 顧客情報の持ち出し:個人情報保護法違反,不正競争防止法違反
  • 企業に対する誹謗中傷:名誉毀損罪,信用毀損罪

いずれも刑事事件や高額な損害賠償請求事件に発展する可能性があります。
軽い気持ちでの仕返しでは済まされません。

再就職の影響

リベンジ退職が懲戒解雇などに繋がった場合,その後の転職活動で不利になることがあります。
職歴で問題社員として扱われる恐れがあり,長期的にキャリアを損なうリスクもあります。

このように,不満を持つ企業に対しての報復行為は自己防衛どころかブーメランになってしまいます。

リベンジ退職に対して企業がとるべき対策

リベンジ退職は企業にとって深刻なリスクを伴います。そのため,未然に防ぐための組織的名取り組みが重要です。

退職兆候の早期把握

社員の離職意向や不満の兆候を早めに察知することが大切です。
勤怠の乱れやコミュニケーションの減少などを定期的にチェックすることで問題の早期発見に繋がります。
また,定期的な面談や従業員向け相談窓口を設け,従業員が不満や悩みを相談しやすい環境を整備しましょう。
声を聞き適切なフォローや改善策を提示することで「黙って辞める」という状況を減らす効果があります。

退職手続の明確化

退職時の手続きを明確にし,業務引継のルールを周知させることも重要です。
業務資料や顧客情報の管理方法を文書化し,退職プロセスを可視化することで退職後のトラブルを最小化できます。

従業員のエンゲージメント向上

長期的には働きやすい職場環境の整備がリベンジ退職の抑止に直結します。
柔軟な働き方や人事評価制度の改善,適切な人材配置を行い,従業員が「ここで働き続けたい」と思える職場をつくることが肝心です。

法的リスクへの備え

万が一リベンジ退職によって損害が発生した場合に備え,就業規則や懲戒規程,情報セキュリティ規定を整備していくことが重要です。
従業員が法的リスクを理解することで,無用なトラブルを防ぐ効果があります。

リベンジ退職を考えているあなたへ

リベンジ退職は職場への不満や怒りを背景に計画的に行われる退職の形であり,企業にとっては業務停滞や信用低下など深刻な影響を与える可能性があります。
特に若い世代は,「我慢するより自己防衛」「退職もキャリアの一部」といった価値観を持ち,感情的な報復ではなく,自己の正当性を優先する傾向があります。
しかし,故意のデータ削除やSNS上での誹謗中傷の発信は損害賠償や刑事責任,名誉毀損など法的リスクに直結する可能性があります。

企業は退職の兆候把握や相談窓口の設置,退職手続の明確化など組織的な対策を講じることでリベンジ退職のリスクを減らすことが出来ます。
一方従業員側も感情的な行動をさけ,冷静なキャリア設計や前向きな転職活動を心がけることが重要です。

リベンジ退職は単なる退職の一形態にとどまらず,現代の職場環境や世代価値観の変化を移す減少でもあります。
企業と個人が双方が適切な対応を取ることで,トラブルを未然に防ぎ,より健全な職場環境を構築することを目指しましょう。

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法律事務所リベロ

所長 弁護士 渡辺秀行(東京弁護士会)

特許事務所にて 特許出願、中間処理等に従事したのち、平成17年旧司法試験合格。
平成19年広島弁護士会に登録し、山下江法律事務所に入所。
平成23年地元北千住にて独立、法律事務所リベロを設立。


弁護士として約18年、離婚、相続、債務整理、交通事故、労働問題、不動産、刑事事件、消費者事件、知的財産、企業法務等、多岐に渡って相談をお受けしております。事件に対する、粘り強く、あきらめない姿勢が強みです。極真空手歴約20年。
法律事務所リベロは北千住徒歩7分の地域密着型法律事務所です。堅苦しくなく、依頼者の方が安心して相談出来る事務所です。お気軽にご相談ください。

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所長 弁護士 渡辺秀行

  • 東京弁護士会所属
  • 慶応大学出身
  • 平成17年旧司法試験合格

弁護士として約18年、離婚、相続、債務整理、交通事故、労働問題、不動産、刑事事件、消費者事件、知的財産、企業法務等、多岐に渡って相談をお受けしております。事件に対する、粘り強く、あきらめない姿勢が強みです。極真空手歴約20年。
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