【相続】扶養型寄与分について弁護士が解説します【Q&A付 】
扶養型寄与分とは?
被相続人を引き取って扶養したり,被相続人の生活費を賄うなどして,被相続人の支出を減少させた結果として相続財産が維持された場合に認められる寄与分です。
寄与分についてはこちらの記事で解説しています。
扶養型寄与分が認められる要件
扶養型寄与分が認められるためには,以下の4つの要件を満たす必要があります。
①被相続人との身分関係に基づいて通常期待される程度を越える特別の寄与があったこと
前提として,被相続人が身体的,経済的に扶養が必要な状態にあったこと,例えば,稼働能力を失い,無収入であったこと等条件になっています。ただし,療養看護型とは異なり,疾病の存在は必要ありません。
また,特別の寄与が必要であるため,被相続人に対し,扶養義務のある相続人がその義務を果たしたに過ぎないような場合には認められません。その一方,扶養義務を負わない相続人が扶養を行った場合には認められます。
②無償又はそれに近い状態で扶養していたこと
わずかな補償を受けていたとしても,本来の介護報酬等に比べて著しく少額であるような場合には,無償性の要件を満たすとされています。
③継続的に扶養していること
期間について明確な定めはないが,短期間,生活費を援助してだけでは寄与分の対象とはなりません。
④寄与行為の結果として被相続人の財産を維持又は増加させていること
扶養型寄与分の計算方法
被相続人の生活を維持するために相続人が実際に負担した金額(飲食費,被服費,医療費,住居間経費,公租公課など)を求めて,それに裁量割合を乗じて計算するのが一般的で,以下の算式によります。
扶養型寄与分の計算式
扶養のために負担した額×裁量割合
計算式の各項目について解説していきます。
①扶養のために負担した額について
各種領収書,家計簿,預金通帳,振込金明細書等から算出します。
ただし,同居生活を送り,家計が同じ場合には,被相続人分のみを峻別して算出することは困難なため,厚生労働大臣の定める生活保護基準や総務省統計局による家計調査を参考に,金額を算定することもあります。
②裁量割合
寄与相続人が扶養義務を有していた場合,同人の分担義務に相当する部分を控除する必要がるため,裁量割合を乗じることになります。
扶養型寄与分に関するQ&A
- 被相続人は,生前,稼働能力を失い,無収入であったため,妻が就業して長期間にわたってその収入で夫婦の生活を維持し,相続財産を維持していた場合,扶養型寄与分は認められますか?
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配偶者に期待される協力扶助の程度を越えた貢献をしているものとして,扶養型寄与分が認められる可能性があります。
- 過去の扶養料を求める方法として,寄与分の審判を申し立てるべきですか?もしくは,他の相続人に対して扶養料の求償を求める審判(扶養審判)を申し立てるべきですか?
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これについては,平成15年2月28日大阪家庭裁判所審判は,遺産分割の機会に,遺産分割に関する紛争と過去の扶養料に関する紛争を一挙に解決するため,過去の扶養料の求償を求める趣旨で寄与分審判を申し立てることが許されないわけではなく,実務上はそのような寄与分審判の申立ても許容されていると判断しました。そこで,寄与分の申立てをすることが出来ます。
ただし,同裁判では,遺産総額が少ない場合には,寄与分制度を通じて過去の扶養料を回収することはできず,寄与分審判の審理においては,一般に,過去の扶養料の求償権の有無及び金額を定める上で極めて重要な要素となる同順位扶養義務者の資力が調査されることはなく,その資力を考慮して寄与分が定められることもないため,寄与分審判によっては,過去の扶養料の求償に関する適切な紛争解決が必ずしも保障されているとはいえないとも判断し,過去の扶養料の求償を求める場合には,原則として,扶養審判の申立てがされるべきとしました。
つまり,遺産分割事件で,寄与分の審判を求めることは出来ますが,寄与分だけでは,過去の扶養料を回収出来ないことがあるため,扶養審判の申立てがされるべきであると判断しました。また,過去の扶養に関して,寄与分審判で何らかの判断がされたとしても,寄与分として認められなかった過去の扶養に関して,別途,扶養審判を申し立てることが出来るとしました。そこで,相続人の1人のみが被相続人の生活費を負担していた場合,実務的には,まずは遺産分割事件の中で,寄与分審判の申立てを行い,寄与分審判において寄与分が否定されたり,過去の扶養料の一部しか認められなかった場合には,その後,扶養審判を申し立てることになると思います。