遺言書の種類と書き方のポイントについて解説
遺言書とは?
遺言書は、自分の財産を誰にどのように、どのくらい残したいか、その指定に法的効力を持たせるものです。自分の意思や想いを確実に伝えるための手段ですが、法律の形式に従って正しく 作成しなければ、その遺言は無効になってしまう場合もあります。
今回は、遺言書の種類と作成にあたってのポイントをご紹介していきます。
遺言書の種類
民法は,遺言について,普通方式の遺言3種類と,特別方式の遺言4種類を定めています。
1 自筆証書遺言
遺言者が,遺言の全文,日付及び氏名を自分で書き,押印して作成する方式の遺言です。
長所
- 作成費用がかからず,いつでも手軽に書き直すことができます。
- 遺言の内容が他人に秘密に出来ます。
短所
- 一定の要件を満たしていない場合,無効となります。
- 遺言書が紛失したり,忘れ去られたりするおそれがあります。
- 遺言書が勝手に書き換えられたり,捨てられたり,隠されたりするおそれがあります。
- 遺言者の死亡後,遺言書の保管者などが家庭裁判所に遺言書を提出して,検認の手続を受けなくてはなりません。
- 相続人が遺言書の存在に気付かないことがあります。
必ず記載しなければならない要素
- 遺言書全文の自書
パソコンを利用したり,コピーしたものは認められません。
ただし,財産目録は,自書でなく,パソコンを利用したり,不動産(土地・建物)の登記事項証明書や通帳のコピー等の資料を添付する方法で作成することができますが,その場合は,その目録の全てのページに署名押印が必要です。 - 日付
遺言の作成日付は,日付が特定できるよう正確に記載します。
例)「遺言者の70歳の誕生日」は有効
「令和5年11月吉日」は無効(具体的な日付が特定できないため)。 - 氏名
戸籍上の氏名でなくても,通称・雅号,ペンネームでも可能(ただし,自筆証書遺言保管制度を利用する場合には,ペンネーム等は不可とされています) - 押印
実印である必要ではなく,認め印でも問題ありません。また,指印でもよいとされています。
押印は,遺言の本文が書かれた書面上にされていればよく,必ずしも署名の下にされていなくてもよいとされています。遺言書本文が封筒に入れられ,その封筒の封じ目にされてた押印を有効とした最高裁判例があります。
様式
用紙が複数枚にわたるときでも,全体として1通とみなせるときは,1枚に署名押印があれば有効です。また,契印(契約書などが複数枚になる場合に,契約書のページをつなぐために押される印です)は必要ないとされています。
内容の変更・追加がある場合
内容の変更・追加がある場合は,その場所が分かるように明示して,変更・追加の旨を付記して署名し,変更した場所に押印をする必要があります。
自筆証書遺言に係る遺言書の保管制度
自筆証書遺言は要件が厳格に定められているため,無効となる可能があり,作成後も,腐紛失したり,改ざんされる恐れがあります。また,相続人が遺言書の存在に気付かないこともあります。そこで,こうした問題を解消するため,自筆証書遺言書とその画像データを法務局で保管する「自筆証書遺言書保管制度」が,令和2年7月10日から開始されました。
長所
- 法務局が保管するため,紛失,盗難,改ざんを防止することが出来ます。
- 自筆証書遺言の形式にあっているかを法務局職員が確認するため,無効となる可能性が低減されます(ただし,有効性を保証するものではありません)。
- 遺言者が亡くなったときに,あらかじめ指定した者へ法務局から通知することになっています。
- 検認手続きは不要となります。
短所
- 遺言者が法務局に出向く必要があります(他人に申請を依頼することが出来ません)。
- 様式などが決められています(用紙はA4サイズ,上側5ミリメートル,下側10ミリメートル,左側20ミリメートル,右側5ミリメートルの余白を確保する必要があるなど)。
- 費用がかかります
2 公正証書遺言
遺言者が遺言の内容を公証人に伝え,公証人がこれを筆記して公正証書による遺言書を作成する方式の遺言です。
長所
- 公証人が作成するので,要件の不備などを理由に無効になる恐れがほとんどありません。
- 原本が公証役場に保管されるため,紛失・変造のおそれ,また,相続人による隠とくや破棄などのおそれがありません。
- 家庭裁判所の検認の手続きが不要です。
短所
- 公証人に依頼するため,ある程度の費用がかかります。
- 2名以上の証人を用意する必要があります(適切な証人候補者がいない場合,公証役場に依頼し,手配してもらうことも出来ますが,費用がかかります)。
- 公証人や証人に遺言の内容が知られてしまいます。
作成手順
- 遺言の内容等について,事前に公証人と打合せを行います。
- 遺言者と証人が公証役場に出向きます。
- 遺言者が遺言書の内容を公証人に口述します。
- 公証人が遺言者の口述を筆記し,これを遺言者及び証人に読み聞かせ又は閲覧させます。
- 遺言者,証人が筆記の正確なことを承認して,署名,押印します。
- 公証人が方式に従って作成したことを付記し,署名,押印します。
3 秘密証書遺言
遺言者が遺言内容を秘密にした上で遺言書を作成し,公証人及び証人2名の前に封印した遺言書を提出して遺言証書の存在を明らかにすることを目的として行われる遺言です。
長所
- 内容を秘密に出来ます。
- 遺言者は自書の必要がないため,自書能力がなくても遺言書を作成出来ます。
- パソコンで遺言書を作成したり,他の人に代筆してもらうことも出来ます。
- 公正証書遺言に比べて費用が安いです。
短所
- 公証人は遺言内容を確認しないため,不備が発見出来ず,無効となる可能性があります。
- 公証人に依頼するため,ある程度の費用がかかります。
- 2名以上の証人を用意する必要がある(適切な証人候補者がいない場合,公証役場に依頼し,手配してもらうことも出来ますが,費用がかかります)。
- 遺言書自体の保管は遺言者が行うため(公証役場は,遺言書の封紙の控えを保管します),紛失のおそれがあります。
- 家庭裁判所の検認が必要です。
作成手順
- 遺言書の作成し,封筒に入れて封をしてから押印します。
- 遺言者と証人が公証役場に出向きます。
- 遺言者が,公証人と証人の前に封筒を提出し,自己の遺言であること,その筆者の氏名住所を申述します(筆者とは,現実に筆記したものです)。
- 公証人は提出年月日と遺言者の申告内容を遺言書の封筒へ記載し,公証人,証人および遺言者が封筒に署名と押印を行います。
4 特別方式の遺言
突然死期が目の前に迫ってきたときなど、緊急の状態の時に利用できる、特殊な方式の遺言です。
①死亡危篤者遺言
疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った方の遺言です。
証人三人以上の立会いのもと,その一人に遺言の趣旨を口授します。
その口授を受けた者が,これを筆記して,遺言者及び他の証人に読み聞かせ,又は閲覧させ,各証人がその筆記の正確なことを承認した後,これに署名し,押印します。
②伝染病隔離者遺言
伝染病のため行政処分によって交通を断たれた場所にいる方の遺言です。
警察官一人及び証人一人以上の立会いをもって作成できるとされています。
③在船者遺言
船舶中の方の遺言です。
船長又は事務員一人及び証人二人以上の立会いをもって作成できるとされています。
④船舶遭難者遺言
船舶が遭難した場合に,船舶中に在って死亡の危急の迫った方の遺言です。
証人二人以上の立会いをもって口頭で遺言をすることができるとされています。
以上の4つの特別方式の遺言は,遺言者が普通の方式によって遺言することができるようになった時から6ヶ月生存するときは,当然に失効するとされています。