【労働問題】これって指導?パワハラ? パワハラの基本的な考え方について解説します!

現代社会にはありとあらゆる”ハラスメント”が存在しています。
代表的なものとしてはカップルや夫婦間に起こるモラルハラスメント,職場内で起こるセクシュアルハラスメントやパワーハラスメント等があります。
さらに最近は就職活動中の学生に対する就活ハラスメントや,顧客や取引先からのカスタマーハラスメントなど新しいハラスメントも発生しています。

その中でも今回はパワハラについて焦点を当て,その定義や,実際のパワハラ事例および被害に遭った際の対処法について解説してまいりたいと思います。

目次

パワーハラスメント(パワハラ)とは何か

パワーハラスメント(以下パワハラ)と聞くとまずどのような行為を思い浮かべますか?

  • 上司から他の同僚の前で罵声を浴びせられる。
  • 毎日終業間際に膨大な量の仕事を押しつけられる。
  • 自分だけ与えられる仕事が極端に少ない。雑用しかさせてもらえない。
  • 不当な配置転換をさせられる。
  • 有給を取得するとその理由を詳細にしつこく聞かれる。

このような行為を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか?
しかし上述の行為を,「仕事だから仕方ない・・・」と思い,パワハラと感じてない人も少なからずいるのも事実です。
そこで,まずはパワハラの定義や判断基準について解説します。

パワハラの定義

パワハラは一般的に以下のように定義されています。

職場のパワーハラスメントとは,同じ職場で働く者に対して,職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に,業務の適正な範囲を超えて,精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。

2012年3月「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」(厚生労働省)

パワハラは上司から部下への嫌がらせ行為と思われがちですが,職務に精通した部下から上司を馬鹿にするような発言(逆パワハラとも呼ばれる)や,集団で特定の人物をいじめるようなケースもパワハラに該当します。
つまり地位や年齢にかかわらず誰でもパワハラの加害者または被害者になる可能性があるのです。

パワハラの判断基準

厚生労働省の「職場におけるパワーハラスメント」に定義されているのパワハラ基準をご紹介します。
以下に述べる3つの要素を満たすと,パワハラに該当すると言われています。

  • 優越的な関係を背景とした言動
    上司や同僚などが,業務上の地位や関係性を利用して相手に対して不適切な言動を行うこと。
  • 業務の適性な範囲を超えた言動
    通常の業務指導や指示の範囲を超えて,過度に精神的・身体的な負担を強いる言動。
    (ex. 無理な納期を設定する。過剰な業務量の強制等)
  • 身体的・精神的な苦痛を与える言動
    その言動が相手に身体的または精神的な苦痛を与え,労働環境を悪化させる場合。
    (ex.  暴力,脅迫,無視,人格否定等)

この3つの要素を満たす場合パワハラと認定される可能性が高く,企業にはこれを防止するための措置を講じる義務があります。

なぜパワハラが発生してしまう?

パワハラという言葉が広く知られるようになった時期は2002年頃とされています。
それ以前にも労働問題や職場の人間関係は存在しておりましたが,現代では特にパワハラ問題が多く発生しているように思います。
その理由は社会の変化や労働環境の変化が背景にあると思われます。

  • コミュニケ-ションの欠如
    職場でのコミュニケーション不足は,相手の価値観を知る機会を減少させます。その結果,相手との認識の齟齬に気づかず,自分の価値観を主張してしまい,意図せずハラスメント行為を行ってしまうことがあります。
  • ストレスやプレッシャー
    過度なストレスやプレッシャーによりパワハラ加害者が不安定な感情になり,その結果立場の弱い者に対して攻撃的になることがあります。
  • 個人の価値観の多様化
    仕事が生きがいの人もいれば,仕事よりもプライベートの充実を優先させる人,職場の人とは割り切った付き合いをしたい人など,職場でもさまざまな考え方の人が存在しています。
    そのため,自分の価値観を通そうとすると意見がぶつかり合い,その結果ハラスメント行為に繋がってしまうというケースも少なくないようです。
  • パワハラの報告や対応件数の増加
    パワハラが増加しているように見える理由として,従業員がパワハラを認識しやすくなったことが挙げられます。パワハラと感じたらすぐに相談できる環境が以前にくらべ整備されたため,件数の増加につながっていると考えられます。

パワハラの具体例

ここまでパワハラの定義や基準などを示してまいりましたが,やはり専門家でないと指導とパワハラは区別しづらいことと思います。
ここからは,実際に裁判所でパワハラとして認められた事案をいくつかご紹介したいと思います。

事例1

自動車販売業に従事していた原告は,新任の部長よりことあるごとに厳しく叱責されていた。
原告は役職定年前に異例の外販担当に配置換えとなり,部長から他従業員よりも高いノルマを課せられ,ノルマを達成できなかった時には休日出勤や月80時間を超えるような時間外労働に従事した。
また,原告に対し会議の場で「あんた給料高いだろ。給料の倍くらい働かなければ(割に)合わない。」と叱責するほか,他同僚の前で原告を無能呼ばわりするなどの言動があり,原告はその後うつ病の診断を受け退職する運びとなった。
原告は,部長と原告の関係はパワハラと評価できることを主張し,うつ病発症は業務に起因するとして労基署に休業補償を請求したが,不支給処分を受けたため,その取消を求めた。

裁判所の判断

・ノルマが前年度比で177.2%と高く設定されていること,原告はノルマ達成には至っていないものの,前年実績との対比で見ると外販担当5人中1位と認められるから,原告の仕事の能力が低下していたことは認められない。
・部長による指導の範囲を超えた厳しい叱責,異動後の厳しいノルマの設定などうつ病発生時期前の出来事に限っても,平均的な労働者に精神障害を発症させる程度の強度の心理的負荷があったといえる。
原告には業務外の出来事による心理的負荷はうかがわれないこと,個体側の要因が認められていないことからすると,業務と原告のうつ病発症および増悪との間には相当因果関係が認められることから,本件各処分は違法である。

(長崎地裁平成22年10月26日判決)

事例2

客室乗務員である原告は18年間勤務したあと,通勤災害により4年以上休職していた。しかし休職中に会社から出社を命じられ,知識テストの結果を見た上司らから連日「能力・適性がない」「普通は辞表を出す」「寄生虫」などと退職を強要されるようになった。
その後原告は復職し,異例ともされる復帰訓練を受けたにもかかわらず訓練を不合格にされ,最終的には「労働能力の著しい低下」を理由に会社から解雇通告された。
これに対し原告は,この通告は解雇権の濫用のため無効である主張をするとともに,退職強要および解雇通告による精神的苦痛を受けたとして,会社に慰謝料等を請求した。

裁判所の判断

・使用者は労働者が直ちに従前業務に復帰できない場合でも,比較的短期間に復帰が可能な場合には,休業または休職に至る事情,使用者の規模・業種・労働者の配置等の実情から見て,短期間の復帰準備期間を提供したり,教育的措置を執るなどが信義則上求められるというべきで,このような手段を取らずに解雇することはできない。
・復帰訓練の結果からすれば,原告を直ちに客室乗務員として乗務させることには消極的にならざるを得ない。しかし原告は休職中における航空機やその設備機器の変化への知識の取得をしなかったにすぎず,解雇事由に該当するような著しい労働能力の低下は認められないから,本件解雇は解雇権の濫用として無効である。
・原告の上司は,原告へ大声で罵倒するほか,その家族に対しても退職を要請しており,かかる被告の対応は社会通念上許容しうる範囲を超えており不法行為となる。
・原告は結局退職していないこと,原告の煮え切らない態度が上司の言動を誘発したことなどを考慮すれば慰謝料は50万円,弁護士費用は5万円が相当である。

(大阪地裁平成11年10月18日判決)

これってパワハラかも・・・と思ったら?

職場内でパワハラを受けているかもしれないと感じた場合は以下のように対応することをお勧めします。

証拠を残す

パワハラを立証するためには証拠を残すことが最も重要です。
パワハラ行為があれば,その日時・場所・内容・周囲にいた人の名前などを詳細にメモしておきましょう。
メールや音声でのやりとりも保存しておくとさらに良いでしょう。

職場の相談窓口やカウンセラーへ相談

最近では多くの企業が,従業員のハラスメント相談窓口を設置しているので,まずはそのような場所へ相談するとよいでしょう。
また,産業医やカウンセラーを設置している企業の場合は,相談のほか心身の状態を診てもらい,心理的なサポートを受けることもできます。

専門家・専門機関へ相談する

企業のコンプライアンス部門やハラスメント窓口に相談しても解決しなかった或いは適切な対応をしてもらえなかった場合には,労働基準監督署や弁護士へ相談することをおすすめします。
専門家に意見を仰げるほか実際に法的措置をとることで問題を解決することができます。

まとめ

パワハラは指導との区別がつきづらく「仕事ができない自分が悪い・・・。」「少し厳しいけれど,これは注意なんだ。」と思い込んでしまい,その結果心身に不調をきたしてしまうことがあります。
もしあなたが同僚や上司から必要以上に叱責を受けたり,不当な配置転換に悩んでいればそれはパワハラかもしれません。
そんなときは無理をせず,一時的に休職したり,専門機関へ相談し今後自分がどのような選択をすれば良いかを考えることが大切であると考えます。

法律事務所リベロ

所長 弁護士 渡辺秀行(東京弁護士会)

特許事務所にて 特許出願、中間処理等に従事したのち、平成17年旧司法試験合格。
平成19年広島弁護士会に登録し、山下江法律事務所に入所。
平成23年地元北千住にて独立、法律事務所リベロを設立。


弁護士として約17年、離婚、相続、債務整理、交通事故、労働問題、不動産、刑事事件、消費者事件、知的財産、企業法務等、多岐に渡って相談をお受けしております。事件に対する、粘り強く、あきらめない姿勢が強みです。極真空手歴約20年。
法律事務所リベロは北千住徒歩7分の地域密着型法律事務所です。堅苦しくなく、依頼者の方が安心して相談出来る事務所です。お気軽にご相談ください。

法律事務所リベロ

所長 弁護士 渡辺秀行

  • 東京弁護士会所属
  • 慶応大学出身
  • 平成17年旧司法試験合格

弁護士として約17年、離婚、相続、債務整理、交通事故、労働問題、不動産、刑事事件、消費者事件、知的財産、企業法務等、多岐に渡って相談をお受けしております。事件に対する、粘り強く、あきらめない姿勢が強みです。極真空手歴約20年。
法律事務所リベロは北千住徒歩7分の地域密着型法律事務所です。堅苦しくなく、依頼者の方が安心して相談出来る事務所です。お気軽にご相談ください。

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