
“優しそうな人”が詐欺師だった?急増する“ペット里親詐欺”の実態と法的対処法

「大切に育ててくれるなら」と信じて譲ったペットが、その後行方不明に──。
そんな信じがたいトラブルが、近年“里親詐欺”として社会問題になっています。
この詐欺は、ペットを愛する飼い主の善意を逆手に取る、極めて悪質な行為です。見知らぬ人に無償で譲渡した後、音信不通になったり、実は転売・虐待が目的だったことが判明したり…。
「返して」と訴えても、法的にどう対応すればいいのか分からず、苦しむ被害者も少なくありません。
本記事では、実際に増えている「ペット里親詐欺」の典型例やその手口、そして法的にどのような対応が可能なのかを、被害に遭った方の目線でわかりやすく解説します。
一人で抱え込まず、適切な対処を取ることで、大切な命を守る可能性はまだ残されています。
ペットの里親詐欺とは?

ペットの里親詐欺とは、本来「新しい家族として大切に育てる」という約束のもと譲り受けた犬や猫などを、悪意をもって利用・処分する詐欺行為です。
一見すると「優しい人」に見える加害者が、実はペットを利用して金銭的利益を得たり、最悪の場合には虐待や遺棄を目的としていた…というケースも珍しくありません。
特にSNSや掲示板など身元の分からないやり取りが増えた現代では、詐欺の温床になりやすく、ペットの命が危険にさらされることもあります。
では、加害者はどのような手口で近づいてくるのでしょうか?以下に典型的な例を紹介します。
よくある里親詐欺の手口
加害者は、動物好きに見せかける言葉や写真を巧みに使い、飼い主の警戒心を解きます。
「先住猫もいます」「前にも保護犬を育てていました」などと、もっともらしい話で“良い人”を演出し、心を許させます。
本名・住所・連絡先が虚偽であることも多く、LINEやSNSだけで連絡を取り、譲渡後に一切連絡が取れなくなるケースが目立ちます。
身分証の提示を求めると急に連絡が途絶えることも。
「明日にでも引き取りに行きます」「今すぐ迎えたい」などと急ぎたがるのも特徴です。冷静な判断の時間を与えず、勢いで譲渡させることを狙います。
最も深刻なのは、譲渡後すぐにネットオークションや譲渡掲示板などで売買されるケースです。
中には虐待目的や「実験動物」としての売買など、命の尊厳を完全に踏みにじる例も報告されています。
こうした詐欺に共通するのは、飼い主の“善意”と“焦り”を逆手に取る狡猾さです。
「もらってくれるだけありがたい」「この人なら信じられる」という気持ちが、結果として命を危険にさらしてしまうこともあるのです。
次のセクションでは、こうした悪質な行為に法律上どのように対応できるのかを解説します。
ペットの里親詐欺は法律的にどうなる?

一度ペットを譲渡してしまったとしても、それが詐欺的な手段によって所有権が移った場合には、法的に無効にできる可能性があります。ここでは、民事と刑事の両面から詳しく解説します。
詐欺による譲渡は、無効または取り消しの対象に
民法では、「詐欺によって契約した場合」はその契約を取り消すことができると定められています(民法96条)。
つまり、加害者が最初から本当はペットを育てる意思がなかったにもかかわらず、「大切に育てます」と騙して譲り受けた場合、その譲渡契約(意思表示)は詐欺によるものとして取り消し可能です。
取消の効果:所有権が遡って無効になり、元の飼い主に戻る。
この場合、法律的には“まだあなたのペット”という状態になります。つまり、ペットの返還請求(動産返還請求訴訟)を起こすことができるのです。
✅ 補足
・取り消しの意思表示は相手方に対して行う必要があります(内容証明郵便などで通知)
・譲渡から5年以内であれば取り消し可能(民法126条)
詐欺罪や動物愛護法違反が成立することも
さらに、相手の行為によっては刑事責任を問える場合もあります。
詐欺罪(刑法246条)
刑法246条では、「人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する」とあります。
ペットも法律上は「物」とされているため、「大切に育てる」という嘘を用いて譲渡を受けた場合、財物(ペット)を騙し取った行為として詐欺罪に該当する可能性があります。
成立要件としては「欺罔行為(=嘘)によって錯誤に陥った被害者が,財物(ペット)を交付し,それによって加害者が財産的利益を得ることです。
これらが揃えば,刑事事件として立件される余地があります。
動物愛護法違反
加害者がペットに対して虐待・遺棄・不適切な飼育をしていた場合は、動物愛護管理法に基づく処罰の対象になります。
さらに2023年の法改正により、動物愛護法違反者は5年以下の懲役または500万円以下の罰金という重い罰則が科されます。
里親詐欺の被害にあったらすべきこと

LINE、SNS、メールなどでのやり取りは、すべてスクリーンショットを撮る等して保管しましょう。
特に以下の内容は重要な証拠になります:
- 「大切に育てます」といった相手の発言(欺罔行為)
- 引き渡し日時・場所
- 相手のプロフィールや顔写真
- 譲渡後に連絡が取れなくなったやり取り
※相手に「返せ!」など強い言葉を送る前に、証拠保全を最優先にしてください。
譲渡時に相手から提示された身分証、連絡先、車のナンバーなどがあれば、記録として残しておきましょう。
匿名のSNSアカウントしかない場合も、そのプロフィール画面・投稿履歴などはスクショしておく価値があります。
※匿名アカウントであっても,通信記録の開示請求ができる可能性があります。
相手のアカウントを晒したり、「詐欺師です」などと名指しする投稿をすると、逆に名誉毀損などで訴えられるリスクがあります。
第三者に注意喚起したい気持ちは分かりますが、発信する前に一度、弁護士などの専門家に相談するのが安全です。
証拠が揃ってきたら、早めに弁護士に相談しましょう。
以下のような対応が期待できます:
- 詐欺に基づく譲渡取消の意思表示(内容証明郵便送付など)
- 動産返還請求の準備
- 警察への被害届提出のサポート
- 相手が特定できない場合の発信者情報開示請求
明らかに悪質な詐欺や虐待の疑いがある場合は、警察への相談・被害届提出も検討しましょう。
民事だけでなく、刑事事件として立件できるケースでは、相手の特定や返還の後押しにもつながります。
トラブルを防ぐために飼い主ができること

里親詐欺の多くは、飼い主の善意や焦りに付け込んで近づいてきます。
悲しい事件を防ぐために、譲渡前に以下のようなチェックと準備をしておきましょう。
譲渡先は会って確認する
オンラインだけでやり取りし、顔も見ないまま譲渡するのは非常にリスクが高いです。
- 可能な限り対面で会い、身分証を確認
- 相手の自宅訪問をして飼育環境をチェック
- 単身者・高齢者・代理人などの場合は、飼育体制を詳しくヒアリング
「自宅訪問はちょっと…」と渋る相手には、動画や写真での環境提示を求めるだけでも判断材料になります。
譲渡契約書を作成する
個人間での譲渡でも、簡単な契約書を交わすだけでトラブルの抑止力になります。
最低限、以下の内容を明記しましょう
- 双方の氏名・住所・連絡先
- 譲渡する動物の情報(種別・年齢・性別など)
- 「転売禁止」「再譲渡時は連絡」などの特約事項
- 虚偽申告があった場合の責任(契約解除・返還等)
譲渡情報の公開範囲は狭くする
「SNSや掲示板で広く募集をかけた方が早く見つかる」と思いがちですが、そのSNSは詐欺師にも開かれているということです。
まずは知人や地域の人,動物病院などから里親を探すことや,SNS上で募集をかける場合はフォロワーだけが見れるようにする等,譲渡相手を絞ることをおすすめします。
やりとりに不審な点はないか綿密にチェック
「ちょっと違和感がある」「質問をかわされる」「話がうますぎる」
…そんなときは、一度立ち止まって確認する勇気が必要です。
相手の熱心さや涙ながらの事情に心を動かされても、ペットの安全と幸せを最優先に考えましょう。
まとめ

里親詐欺は、人の善意と動物の命を利用する、極めて悪質な行為です。
「助けたい」「幸せになってほしい」――そんな思いを踏みにじられる悲しい事件が今も静かに起きています。
でも、あなたにはできることがあります。
譲渡前にリスクを見抜き、トラブルが起きたら法的に立ち向かうことで、大切な命を守ることができます。
一度譲ったからといって、すべてを諦める必要はありません。
証拠があり、嘘があったのなら、法はあなたの味方になります。
- 相手と連絡が取れなくなった
- SNSで別の人に勝手に譲渡されている
- 動物虐待の疑いがある
譲渡先でこのようなことが起こった場合には,まずは状況を冷静に整理して、法的に何ができるかを知ることから始めましょう。