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会社法-取締役と株式について-

日本では、以前は、会社法と題する法令は存在せず、商法第2編、有限会社法、株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律など、会社に関係する法律を総称する名称として用いられていました。
しかし、2005年の法改正によって、それらを統合・再編成する法律として会社法(平成17年法律第86号)と題する法律が制定されました。
会社法の要点は
- 利用者の視点に立った規律の見直し
- 会社経営の機動性・柔軟性の向上
- 会社経営の健全性の確保 等
このコラムでは取締役の責任と取締役の解任,株式譲渡について解説します。
取締役の責任

会社法は、改正前商法とは異なり、株式会社の取締役が負うべき責任として、原則、過失責任としました。
また、改正前商法では取締役会決議に賛成した取締役もその行為をしたものと見なす、と定められていましたが、その規定も削除されました。
経営判断の原則
経営者が果敢に挑戦しても、それに失敗して会社に損害が発生すれば、会社から損害賠償され、あるいは、株主代表訴訟を提起され、巨額の損害賠償をしなければならなくなるというのは妥当ではありません。
失敗に終わってしまう経営判断もあり得ますから、これを事後的に評価して法的責任を問うことは、経営者を萎縮させ、かえって企業のためにならないからです。
そこで、経営判断の原則といって、取締役が行動に出る前に、それによる被るリスクがどの程度のものであるかについて、慎重な判断がなされ、その裁量の範囲内において決断したのであれば、たとえ結果が失敗に終わっても法的責任は問われないという原則が認められています。
この原則の適用が認められるためには、その行為がなされた当時における会社の状況及び会社を取り巻く社会、経済、文化等の情勢の下において、その会社が属する業界における通常の経営者の有すべき知見及び経験を基準として
ⅰ 経営判断の前提としての事実の認識に不注意な誤りがなかったこと
ⅱ その事実に基づく行為の選択決定に著しい不合理がなかったこと
が必要です。
これらの要件を充足している場合には、仮に、結果が失敗に終わったとしても、取締役は損害賠償請求されることはありません。
経営判断の原則の適用
裁判官が、取締役に法的責任を認めるのは、「リスクの検討をしていない場合」と「リスクの検討が不十分な場合」です。
ですから、主管部門からリスクに関して検討した詳細な資料を取締役会宛に提出させ、取締役会において、提案された案件について、リスクを検討し、一定のリスクは認められるけれども、それを上回るメリットに賭けてやってみる価値があるか、万一、うまくいかなかった場合の対応策、撤退スキーム等について十分な検討をすることが重要となります。
また、多くの企業では、未だに、取締役会議事録に「第○号議案を審議し、一同、異議無く承認した。」という議事録を作成して、議論の過程を議事録に残していません。
しかし、取締役を守るために弁護士が欲しいのは、「リスクが具体的に検討されており、それに対する対応策が記載されている証拠資料」です。
裁判を提起されてから、「当時はいろいろ考えていました。」と申し開きをしても、裁判官は証拠がなければ事実を認定してはくれません。
経営判断を行った当時に、しっかりと情報を収集し、分析し、検討が行われていたのであれば、それを証明できるように、きちんと可視化しておく必要があります。
取締役の解任
株主総会は、いつでも普通決議(累積投票制度によって選任された取締役については特別決議)によって、取締役を解任できますが、任期の定めがあるにも関わらず、正当な理由なくして解任した場合には損害を賠償しなくてはなりません。
これは、正当な理由なくして、取締役を解任されたのでは、取締役の地位が余りに不安定になってしまい取締役の利益を著しく害することになるからです。
解任の正当な理由としては、法令、定款違反行為があった場合、経営能力が著しく欠如していたような場合が挙げられます。
一方、他にもっと適任な者がいるといった理由だけでは、正当な理由があるとは言いがたいと思われます。
これらは、監査役や会計参与を解任する場合にもあてはまります。
不当解任の場合、多大な損害賠償義務を負担することにもなりませんので、慎重に判断する必要があります。
株式譲渡

株式は自由に譲渡することができるのが原則です。
株式の譲渡方法は、株券発行会社の場合、譲渡する旨の意思表示と共に、株券を譲受人に交付することによって行います。
株式を譲り受けたことを会社に対抗するためには、譲受人は株主名簿に記載・記録する必要があります。
一方、株券不発行会社の場合は、株式を譲渡する旨の意思表示のみによって、株式は移転し、会社その他第三者に対抗するためには、株主名簿への記載・記録が必要になります。
譲渡制限株式
株式に譲渡制限を付けるためには、定款で、その株式を譲渡により取得することについて、その株式会社の承認が必要である旨を定める必要があります。
また、一定の場合に承認したものと見なすこともできますが、その場合もその旨と一定の場合の内容について、定款に記載しなければなりません。
会社設立当初から譲渡制限株式を設ける場合は、原始定款でその旨を定めることになります。
一方、会社設立後に譲渡制限株式を新たに設ける場合は、定款変更が必要になります。
定款変更するためには、株主総会の特殊決議が必要です。
株式の買取価格
買取価格は、承認請求者と会社または指定買取人との間の協議によって決まります。
ただし、その協議の期間は会社からの通知があった日から20日以内に限られており、その期間内に承認請求者・会社・指定買取人のいずれかが裁判所に対して売買価格決定の申立てを行った場合、裁判所が価格を決定します。
一方、その期間内に申し立てもされず、かつ、協議も成立しなかった場合は、上記の会社が供託する金額によることになります。