相続について-相続が発生したらどうする?-

目次

相続が発生したら知るべきこと

親族が亡くなると発生する相続問題。
そもそも「相続って何?」 「相続できる人は何人いるの?」「財産はどれだけあるんだろう・・・」等
初めて経験する場合にはわからないことばかりで大変だと思います。
また相続は完了するまでに多くの手続があり、期限付きのものもあるためとても複雑です。
相続手続については、専門知識のある弁護士に相談するとよいでしょう。

法定相続とは?

財産のある方が遺言せずに亡くなると、民法887条から890条により定められた相続人が、民法900上に従って、一定の相続分を相続することになります。
これを法定相続といいます。

法定相続人にはどれだけ分配される?

法定相続によって相続人に相続される相続財産の割合を法定相続分といいます。
ですから法定相続分を知ることは、誰にいくら相続されるのかを知るひとつの目安となります。

法定相続人の順位及び法定相続分一覧

順位法定相続人法定相続分  
1子と配偶者子=1/2配偶者=1/2
2直系尊属と配偶者直系尊属=1/3配偶者=2/3
3兄弟姉妹と配偶者兄弟姉妹=1/4配偶者=3/4

この表をわかりやすくイラストで表すとこうなります。

法定相続人の第一順位

法定相続人の第二順位

法定相続人の第三順位

また、被相続人が遺言書を作成していない場合は、法定相続で以下のことが決められています。
・配偶者は常に相続人
・直系尊属は、子どもがいない場合の相続人
・兄弟姉妹は、子と直系尊属がいない場合の相続人

相続人になれない場合とは

本来なら相続人になれる資格があった人でも、以下のような事由がある場合には、遺産を相続することが出来ません。

相続人が死亡している

相続人が被相続人より先に死亡した場合、または同時に死亡した場合には遺産を相続することは出来ません。

相続権の欠格

以下の事由に該当する場合は、裁判所へ申立をせずとも相続権がなくなります。

  • 被相続人や、自分より相続の順位が上位の相続人または同順位の相続人を故意に殺害(未遂も含む)して刑に処せられた場合
  • 被相続人が殺害されたことを知りながら告発・告訴しなかった場合
  • 詐欺や脅迫によって、被相続人が相続に関する遺言を作成・取消・変更しようとするのを妨げた場合。
  • 詐欺や脅迫によって、被相続人に相続に関する遺言を作成・取消・変更させた場合
  • 被相続人の相続に関する遺言書を偽造・変造・破棄・隠匿した場合
相続廃除

相続欠格のように、当然に相続権がなくなるわけではありませんが、被相続人を虐待したり、重大な侮辱を与えたり,相続人に著しい非行があった場合などに、家庭裁判所が相続権を剥奪するというものです。
廃除をするためには、被相続人本人が、生前に家庭裁判所に申し立てて、審判を受ける必要があります。
遺言で廃除の意思表示をしていたような場合には、遺言執行者が家庭裁判所に申し立てることになります。


相続できる財産

相続財産となるものは、被相続人の財産に属した一切の権利義務が対象となります。

「一切の権利義務」というのは、被相続人が置かれていたすべての立場と考えても結構です。

ですが、財産のなかには相続財産に該当しないものもありますので注意が必要です。

相続財産の代表的なもの
  • 土地、建物など不動産の所有権
  • 家財道具、自動車、貴金属、現金、預貯金など動産の所有権
  • 土地や建物の賃借権、売掛金などの債権
  • 特許権、商標権、意匠権、著作権などの無体財産権
  • 契約上の地位
  • 借金、未払金、買掛金、損害賠償金の支払いなどの債務
相続財産ではない代表的なもの
  • 身元保証など保証額に期間や制限のない保証債務
  • 生命保険金請求権
  • 死亡退職金
  • 香典

なお、上記のような相続財産ではないものについても、生命保険金、死亡退職金などは、「みなし財産」として相続税が課せられますから、注意が必要です。

遺産の評価の基準時と方法

相続人間で、遺産を公平に分配するためには、その前提として遺産の価値を把握しておく必要があります。

評価の基準時

遺産の価格をいつの時点で評価するかについては、相続開始時と考える説と遺産分割時と考える説がありますが、遺産分割時とするのが実務の大勢です

不動産の評価

遺産のうちで最も評価が争われるのは、不動産、特に土地です。

不動産の評価方法としては、以下の3つの方法がありますが、対象不動産の類型に応じて、これらを併用するなどして、総合的に判断します。

① 比較法

同種、同規模の不動産が市場において取引される価格との比較において価格を算定する方法

② 収益還元法

当該不動産を利用することによってどの程度の収益が得られるかに着目して、その収益を期待利回りで除して資本還元することにより価格を算定する方法

③ 原価法

当該不動産の再調達原価について減価修正して価格を算定する方法

しかし、これらの方法を実践するためには、専門知識を要するため、
簡易な方法として、地価公示価格、相続税路線価、固定資産税評価額等を参考に、評価することもあります。

株式の評価方法

上場株式

実務においては、遺産分割時に最も近接した時点での最終価格(終値)等によって算出することとし、
日刊新聞や東京証券取引所のホームページのマーケット情報等を参考にします。

非上場株式

以下のように、会社法上の株式買取請求における価格や税務上の評価基準を参考にします。

1 会社法上の株式買取請求における株価算定方法

① 純資産方式

会社の総資産価格から負債等を控除した純資産価格を発行済株式数で除して評価する方法

② 配当還元方式

会社の配当金額を基準として、これを発行済株式数で除して評価する方法

③ 類似業種比準方式

会社と類似する業種の事業を営む会社群の株式に比準して評価する方法

④収益還元方式
将来の予想年間税引後純利益を資本還元率で除したものを発行済株式数で除して評価する方法

⑤ 混合方式

これらの方法を組み合わせて評価する方法

2 税務上の評価基準

相続人が同族株主になる場合、会社を大中小の区分に分け、大会社は類似業種比準方式(選択により純資産方式も認める)が適用され、中会社は類似業種比準方式と純資産方式とを併用して計算し、小会社は純資産方式によるものとされています。

同族株主にならない場合は、配当還元方式によるものとされています。

ただし、当事者間で価格の合意が成立しない場合には、公認会計士等の専門家の鑑定で価格を決定します。


相続手続でお困りの方

相続が発生した場合、必要な手続は50~100個以上もあると言われています

代表的なものは、不動産の名義変更や、預貯金の名義変更等ですが、それ以外にも生命保険や、死亡退職金等の手続があります。

遺産分割協議がまとまったとしても、必要な手続をしなかったために、もらえるものがもらえなかったり、後々トラブルになることもあります。

特に不動産の名義変更をしておかないと、後々トラブルになるケースが多くあります。

相続人調査と財産調査

相続人調査とは?

相続は亡くなった方から相続人への財産などを移転することですから、そもそも相続人が誰なのかが分からなければ手続はできません。想像もしなかったような人が相続人になることも少なくはありません。「調べなくても大丈夫だろう。」と考えでいると、思わぬ事態に陥ってしまう危険性があります。

しっかりと誰が相続人であるかを把握することが重要です

誰が相続人なのかを調べるためには、まずは、亡くなった方の「戸籍謄本」「除籍謄本」「改製原戸籍」等を出生から死亡まですべて取得する必要があります。

相続財産調査とは

相続は、色々な財産や権利・義務をそのまま受け継ぐということです。

相続人は自分の相続したい財産の一部分だけを相続することはできません

亡くなった人が持っていた財産や権利・義務のすべてが相続することになりますから、借金も一緒に相続しなければいけないのです

ですから、相続財産全てを調査する必要があります。

相続財産には3種類あります
  • 相続財産 ・・・・・・遺産分割の対象になる財産 
  • みなし相続財産 ・・・相続税の課税対象になる財産
  • 祭祀財産 ・・・・・・相続財産にも、みなし相続財産にもそのどちらにもならない財産

預貯金の名義変更

被相続人の預貯金を相続しても、名義変更か解約手続きをしないと、原則として、お金を引き出すことが出来ません
そして、どちらの場合にも、相続人全員の承諾書や印鑑証明書、遺産分割協議書などが必要になります

※金融機関が預貯金者の死亡を知らなければ、たとえ相続人でなくとも通帳と印鑑を持参した人に支払ってしまうこともあり得ますので、預貯金者が死亡したことは速やかに銀行等に知らせて下さい。

預貯金の名義変更に必要な必要書類(主なもの)

遺産分割協議による場合

① 各金融機関の所定の名義書換請求書ないし払戻請求書

② 遺産分割協議書

③ 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本(除籍謄本)

④ 各相続人の戸籍謄本

⑤ 相続人全員の印鑑証明書

⑥ 被相続人の預貯金通帳と届出印

※ 金融機関によって用意する書類が異なる場合もありますので、どのような書類が必要になるのか、直接、金融機関に問い合わせて下さい。

遺産分割調停・審判の場合の主な必要書類

① 各金融機関の所定の名義書換請求書ないし払戻請求書

② 遺産分割調停調書正本または遺産分割審判書正本(確定証明書付)

③ 各相続人の戸籍謄本

④ 被相続人の預貯金通帳と届出印

※金融機関によって用意する書類が異なる場合もありますので、どのような書類が必要になるのか、直接、金融機関に問い合わせて下さい。 

不動産の名義変更手続き

相続が起こった場合、被相続人名義の不動産登記簿を相続人名義に変える手続きをしなくてはなりません。

不動産名義を変更しないと、後々トラブルになりかねません。
例えば、被相続人の不動産を何らかの形で手に入れた第三者が、相続人よりも先に登記を行うと、相続人がその不動産の所有権を失うこともあり得るのです。

相続した不動産を確実に自分のものにするためにも、不動産の名義変更手続きはできるだけ速やかに行って下さい。

遺産分割前

相続に伴って行う不動産登記の変更は、相続登記とよばれています。
相続登記の申請は、登記しようとする不動産所在地を管轄する登記所に行います。

相続登記は、相続人であれば誰でも単独ですることができます。

遺産分割後

遺産分割前に相続登記がされていない場合

遺産分割前に、登記の名義が被相続人のままになっている場合には、遺産分割協議等によって不動産を相続することに決まった相続人が、単独で移転登記をすることができます。
この場合、登記原因は、「相続」となります。

遺産分割前に相続登記がされている場合

遺産分割協議等によって不動産を相続することに決まった相続人が登記権利者となり、他の共同相続人が登記義務者となります。
そこで、両者が共同して登記申請をします。
この場合、「遺産分割」を登記原因として、ほかの共同相続人の持分を単独の所有権者になった相続人に移転する旨の登記をすることになります。

相続人に負債があったら?相続破棄と限定承認

遺産に借金があるような場合は,相続放棄か限定承認を検討します。

相続放棄

たとえば,マイナスの財産が明らかにプラスの財産を上回る場合や,相続争いに巻き込まれたくな
い場合,相続人は,相続を放棄することが可能です。
相続を放棄する場合,相続人になったことを知った日から3ヵ月以内に,相続放棄する旨を,
家庭裁判所に申述しなくてはなりません。

限定承認

相続人が得たプラスの財産の範囲内で,被相続人の借金を返し,残った財産を相続できます。
たとえば,マイナスの財産が多い場合には,プラスの範囲内で債務を返済し,残りの債務を返済をせず
に終了できます。つまり,限定承認者は,相続財産の限度を超えて債務を返済する必要はなくなります。

限定承認する場合,相続人になったことを知った日から3ヵ月以内に,限定承認する旨を,
家庭裁判所に申述しなくてはなりません。

3ヶ月経過後の相続放棄

相続放棄や限定承認の判断は、相続発生を知ってから3ヶ月以内にしなければなりません。

しかし、3ヶ月という短期間で、全ての相続財産を確認し、プラスかマイナスかを判断することはなかなか難しい場合があります。


例えば、被相続人が全国各地で様々な事業を行っていた場合や、複数ヶ所の不動産を所有していた場合、すべての資産と借金を3ヶ月で把握するのは困難です。

このような場合は、相続放棄の期間を延長してもらうことができます

相続について利害関係を有する人が家庭裁判所に請求することにより、この期間を延長することができます。
ですから、借金が多いのか資産が多いのか直ちにははっきりしないために、相続放棄の決断がつかず迷っている場合には、この延長の請求をおすすめします。

その他、相続人が、相続財産が全く存在しないと信じ、かつ、被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態等からみて、相続人が相続財産の有無を調査するのが著しく困難な事情等がある場合には、相続放棄の熟慮期間は、例外的に相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識し得る時から起算されることもあります。

やむを得ず3ヶ月を過ぎて、相続放棄の必要性が生じた場合は、弁護士にご相談ください。

(あらかじめ、不可能な場合もあることはご了承ください。)

限定承認について

限定承認とは、債務のうち相続財産を超える部分の返済義務を引き継がない方法です。

つまり、相続の承認はするけれども、相続債権者のために相続人自身の財産まで提供して債務を弁済するということはせずに、被相続人から承継する相続財産の限度で、被相続人の債務の支払いをするという、限度付きの相続のことです。

限定承認が有効なケースとしては、以下のようなものが考えられます。
  • 債務が超過しているかどうかはっきりしない場合
  • 債務を加味しても、どうしても相続したい相続財産があるような場合(自宅等)
  • 家業を継いでいくような場合に、相続財産の範囲内であれば債務を引き継いで良いというような場合
  • 再建の目処がたってから返済する予定であるような場合
限定承認をする場合は、以下のような手続きが必要となります。

1)相続人全員の総意が必要となります。

2)相続の開始を知ったときから3ヶ月以内に「限定承認の申述審判申立書」等を家庭裁判所に提出します。

いずれにしても、相続が発生した早い段階から、相続人の確認、相続財産の確認を調査して、相続しても良いものなのか、するべきではないかの判断ができる状態を作ることが重要です。

個別のケースについては、専門家である弁護士にご相談ください。

相続税について

相続税は、相続または遺贈により財産を取得した場合にかかってきます

 相続・・・民法で定められている法定相続人が財産を取得した場合をいいます。

遺贈・・・遺言によって相続人やその他の人が財産を取得した場合をいいます。

ただし、相続税には基礎控除があり、遺産の評価額が基礎控除の金額以下であれば相続税はかからず、税務署に対する申告も必要ありません。

平成27年1月1日から、基礎控除=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)

例えば、法定相続人が2人の場合は、基礎控除額が4,200万円となり、遺産の額が4,200万円以下であれば相続税を支払う必要はありません。

また、評価額が基礎控除を超える場合でも、申告をする事によって使える税務上の特例(配偶者の税額軽減、小規模宅地の評価減)により、相続税がかからないケースもあります。

相続税の評価

相続税の申告は時価ではなく、相続税法や国税庁の通達に従った評価額、すなわち相続税評価額をもとに行います
相続税の申告で最も厄介なのはこの相続税評価額の計算であり、これはかなりの専門知識が要求されます。

実は、相続税は誰が計算しても同じというものではなく、専門家が計算しても、一致しないことが多いのです。

税理士でも馴れていない人が計算すると、本来払わなくても良い税金を支払わされることになってしまいかねません。従って、相続税に関しては、相続税に精通した税理士に相談されることをおすすめ致します。

相続税の対象となる財産

相続税は、原則として、相続または遺贈で取得した財産全てにかかります

また、相続または遺贈で取得した財産とはいえないものにも、相続税が課せられるものがあります(みなし相続財産といいます)。

一方、遺産であっても、国民感情や社会政策的な観点から、相続税が課せらない財産(非課税財産)もあります。

課税財産

土地、借地権、建物、借家権、現金、預貯金、株式、貴金属、宝石、骨董品、自動車、特許権など

みなし相続財産

死亡退職金や、生命保険金などは、本来、被相続人が所有していた財産ではありません

しかし、これらは、被相続人の死後に支払われるもので、実質的には相続財産と同様の効果、価値があることから、相続または遺贈により取得したものとみなして課税されることになっています。

生命保険金

被相続人が保険料を負担し、被相続人の死亡により相続人等が取得するものが課税対象となります。

ただし、相続人が受取人だった場合、一定の金額(500万円×法定相続人の数)が非課税となるため、その額を差し引いた金額に対して課税されます。

死亡退職金

被相続人が保険料を負担し、被相続人の死亡により相続人等が取得するものが課税対象となります。

被相続人の死亡により、相続人等に支給される死亡退職金も、課税対象となります。

ただし、生命保険金の場合と同様、相続人が受取人だった場合、一定の金額(500万円×法定相続人の数)が非課税となるため、その額を差し引いた金額に対して課税されます。

非課税財産

① 墓地、墓碑、仏壇、祭具など

② 国や地方公共団体などの寄付した財産

③ 公益事業を行うものが取得した公共事業用財産

④ 心身障害者扶養共済制度に基づく給付金の受給権

⑤ 相続人が取得した生命保険金のうち、一定の額(500万円×法定相続人の数)

⑥ 相続人が取得した退職死亡金のうち、一定の額(500万円×法定相続人の数)

相続税の計算

相続税は、以下の4段階に分けて計算します

第1段階 各人の課税価格を計算する

① 相続または遺贈によって取得した財産の価額に、みなし相続財産の価格、相続時精算課税にかかる贈与によって取得した財産の価格を加えます。

② 非課税財産の価格と債務及び相続費用の合計額を計算します。

③ ①から②の金額を引きます。

④ 相続開始前3年以内に生前贈与を受けていたら、その額を足します。

第2段階 課税遺産総額を計算する

① 第1段階で計算した各人の課税価格の合計額を計算します。

② 遺産にかかる基礎控除額を計算します(3,000万+600万×法定相続人の数)。

③ ①から②の金額を引きます。

第3段階 相続税総額を計算する

ここでは、実際に行われた遺産分割で取得した財産の額は考慮せず、法定相続人が、課税遺産総額を法定相続分に応じて取得したものと仮定して相続税総額を計算します。

① 課税遺産総額×各相続人の法定相続分

② 各法定相続人の税額を計算(①×相続税の税率)

③ 相続人毎に計算した②の金額を加算して、相続税総額を計算します。

第4段階 各人の納付すべき相続税額を計算する

① 相続税総額を、各人が実際に取得した財産の割合(課税価格の合計額に占める各人の課税価格の割合)で配分します。

② 必要があれば2割加算を行います(被相続人の子、父母及び配偶者以外の者等) 。

③ 必要があれば税額控除を行い、各人の納付すべき相続税額を求めます。

相続財産の評価

相続税額は、相続した財産の価額によって異なります
財産の価額は、相続税法に特別の定めがない限り、その財産の取得時の時価によります

ここで、時価とは、課税時期(相続、遺贈により財産を取得した日)において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいいます。
具体的には、国税庁の財産評価基本通達に、財産の種類ごとに評価方法等が定められています。

宅地の評価

宅地の場合、路線価が定められている地域にある宅地の場合には路線価方式を適用し、それ以外の宅地の場合には倍率方式を適用します。

路線価方式

土地の面する路線に付された路線価に、宅地面積を乗じて評価額を求めるのが基本ですが、土地の形状などに応じて、様々な補正を加えます。
市街地にある宅地は、ほぼ路線価方式で評価します。
路線価は、1㎡ あたりの価額で示され、路線価図で確認することが出来ます。

倍率方式

宅地の固定資産評価額に、国税庁の定める一定の倍率をかけて計算する方法です。

路線価が定められていない地域の宅地は、倍率方式で評価します。

建物の評価

評価額は、固定資産評価額と同じです。
マンションについても同様に、固定資産評価額によって評価します。

借地権

借地権の価額は、以下のように、その借地権の目的となっている宅地の自用地としての評価(自用地評価額)に、借地権割合を乗じて計算した金額によって評価します。借地権割合は、路線価図や評価倍率表に記載されています。

自用地評価額×借地権割合

借家権

第三者から家やマンションなどを借りている借家人の権利です。
この価格は、以下のように自用家屋評価額に借家権割合(30%)をかけた額によって計算します。
ただし、借家権が課税財産とされるのは、権利金という名称で取引される慣行のある地域に限られます。

自用家屋評価額×借家権割合

貸宅地

相続した宅地について、他人に借地権が設定されているような宅地を貸宅地といいます。
貸宅地は、第三者の権利によって所有者の権利が制限されているので、自用地に比べて評価額が低くなります。
具体的には、以下のように、自用地としての評価額から借地権の評価額を控除して求めます。

自用地評価額×(1-借地権割合)

貸家建付地

自分の所有する土地に、自分の家屋を建て、それを貸家にしているような場合の、その土地のことを、貸家建付地といいます。
このような土地は、借家人の立ち退きなどに費用がかかるため、売却するにしても、更地価格では売れません。
この場合、以下のように、自用地評価額から、借家人がその宅地に対して有する権利を差し引いた額によって評価します。

自用地評価額-自用地評価額×借地権割合×借家権割合

貸家

家やマンションなどを他人に貸して、家賃をとっているような場合には、以下のように、自用家屋の評価額から借家権評価額を引いた額によって評価します。

自用家屋評価額-自用家屋評価額×借家権割合

相続税の税額控除

相続財産取得者の生活保障、二重課税の排除等のため一定の要件のもと、以下の税額控除項目が設けられています。

1 贈与税額控除(暦年課税適用分)

    

2 配偶者の税額控除

    

3 未成年者控除

    

4 障害者控除

    

5 相次相続控除

    

6 外国税額控除

    

7 相続時精算課税にかかわる贈与税額控除(精算課税適用分)

税額控除は、必ず①→⑦の順に適用することになっています。

1 贈与税額控除(暦年課税適用分)

相続開始前3年以内に贈与があった場合、贈与財産の価額を相続税の課税価格に加算した価額を相続税の課税価額とみなして相続税額を計算しますが、課された贈与税を税額から控除して実際の納付税額を計算します。

2 配偶者の税額控除

被相続人の死亡後における配偶者の老後の生活保障等の観点から、課税価格の合計額のうち配偶者の法定相続分相当額または1億6000万円のうちいずれか大きい金額が控除されます。

ただし、配偶者控除は、原則として、申告期限までに遺産分割協議が成立しないときには適用できません。

3 未成年者控除

相続財産を取得した者が未成年者である場合には、その者が20歳に達するまでの養育費が、遺産から支払われるべき性格のものであることを考慮して、以下の金額が控除されます。

10万×(20歳-相続開始時の年齢)

4 障害者控除

相続財産を取得した者が障害者である場合には、障害者が通常の人より余分に生活費等を必要とすること等を考慮して、以下の金額が控除されます。

一般障害者・・・ 10万×(85歳-相続開始時の年齢) 

特別障害者・・・ 20万×(85歳-相続開始時の年齢) 

5 相次相続控除

短期間に相続の開始があった場合、短期間に何度も相続税が課税されることになり、長期間相続の開始がなかった場合と比較して、相続税の負担に著しい不均衡が生じてしまうことから、第1次相続と第2相続の開始の間が10年以内であるときには、第1次相続の際課せられた相続税額のうち一定割合の控除を受けることができます。

6 外国税額控除

日本国外にある財産を取得し、その財産について外国で相続税等が課せられた場合には、原則として、その課せられた税額を控除することが出来ます。

7 相続時精算課税にかかわる贈与税額控除

相続時精算課税制度の適用を受ける贈与に贈与税が課せられていた場合には、その贈与税額を控除します。なお、精算課税による贈与税額の控除は、贈与税額控除(暦年課税適用分)の場合とは異なり、相続税額を超える部分については、還付を受けることが出来ます。

小規模宅地等についての特例

土地などの不動産だけを相続した場合、その相続財産を売却しないと相続税が納付できないというケースも想定されます

しかし、相続人が相続後も事業を行う土地や、居住する土地は、生活の基盤となる財産であり、相続税のために売却してしまうと、生活の維持ができなくなってしまいます。

そこで、一定の事業用宅地や居住用宅地については、一定面積まで、一定割合、評価額を減額する制度を設けています

特例の対象となる宅地

特例の対象となる宅地等は、一定の建物又は構築物の敷地の用に供されているもののうち、相続人等が選択した部分で申告期限までに遺産分割されているものをいい、具体的には以下によります。

(1)特定事業用宅地等

被相続人等の事業用宅地等(不動産貸付業等を除く)を被相続人の親族が取得し、下記の要件を満たす場合の宅地等をいいます。

① 被相続人の事業用宅地等の場合

イ 被相続人の親族が取得していること。

ロ 申告期限までの間に被相続人の事業を引き継いでいること。

ハ 申告期限までその宅地等を所有していること。

ニ 申告期限までその事業を営んでいること。

② 生計一親族の事業用宅地等の場合

イ 当該生計一親族が取得していること。

ロ 申告期限までにその宅地等を所有していること。

ハ 申告期限までその事業を営んでいること。

(2)特定居住用宅地等

被相続人等の居住の用に供されていた宅地等を取得した者が、次の①又は②のいずれかの要件を満たす場合の宅地等をいいます。

① 被相続人の居住用宅地等の場合

イ 配偶者がその宅地等を取得した場合
被相続人の配偶者がその宅地等を取得すれば必ず特定居住用宅地等に該当する。

ロ 被相続人と同居していた親族がその宅地等を取得した場合

1.被相続人の居住用家屋に居住していた親族が取得していること。

2.申告期限までその宅地等を所有していること。

3.申告期限までその家屋に居住していること。

ハ 非同居親族がその宅地等を取得した場合

  1. 被相続人の配偶者又は相続開始直前に被相続人と同居していた親族でその被相続人の法定相続人がいないこと。
  2. 宅地の取得者又はその者の配偶者が相続開始前3年以内にこれらの者が所有する家屋に居住したことがないこと。
  3. 申告期限までその宅地等を所有していること。

② 生計一親族の居住用宅地等の場合

イ 当該生計一親族が取得していること。

ロ 申告期限までにその宅地等を所有していること。

ハ 申告期限までその家屋に居住していること。

(3) 特定同族会社事業用宅地等

特定同族会社の事業の用に供されていた宅地等(不動産貸付行等を除く)を被相続人の親族が取得し、下記の要件を満たす場合の宅地等をいいます。

※ 特定同族会社とは、相続開始直前に被相続人及び被相続人の親族等が、法人の発行済みの総数または、出資の総額50%超を有している場合におけるその法人のことをいいます。

イ 宅地等を取得した親族が、申告期限においてその法人の役員であること。

ロ 取得した宅地等を申告期限まで引き続き取得していること。

ハ 申告期限まで引き続きその法人の事業の用に供されていること。

(4) 貸付事業用宅地等

被相続人の事業(不動産貸付業に限る。)用宅地等を被相続人の親族が取得し、下記の要件を満たす場合の宅地等をいいます。

① 被相続人の事業用宅地等の場合

イ 被相続人の親族が取得していること。

ロ 申告期限までの間に被相続人の貸付事業を引き継いでいること。

ハ 申告期限までその宅地等を所有していること。

ニ 申告期限までその貸付事業を営んでいること。

② 生計一親族の事業用宅地等の場合

イ 当該生計一親族が取得していること。

ロ 申告期限までにその宅地等を所有していること。

ハ 申告期限までその貸付事業を営んでいること。

特例の適用面積と減額割合

減額の対象となる宅地の面積と減額割合は、上記のどの宅地に該当するかで異なってきます(以下の表)。例えば、被相続人の家屋の敷地を配偶者が取得した場合、特定居住用宅地に該当し、330平方メートル
まで、80%引きで評価されます。

小規模宅地等の種類適用面積減額割合
特定事業用宅地等、特定同族会社事業用宅地等400平方メートル80%
特定居住用宅地等330平方メートル80%
貸付事業用宅地等200平方メートル50%
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